アニメ『呪術廻戦』虎杖悠仁役は声優・榎木淳弥の真骨頂 視聴者を没入させるリアルな芝居
2018年3月より『週刊少年ジャンプ』で連載がスタートした『呪術廻戦』。妬みや恥辱、恨みといった人間の負の感情から生まれる呪いが実体化した「呪霊」と、それを呪術によって祓う「呪術師」との戦いを描いた芥見下々による同作がTVアニメ化されたのが2020年10月。もともと人気のあった作品だが、TVアニメの放送がスタートして以降累計発行部数は5,000万部(※2021年5月31日時点)を超えるなど、いま最も注目すべき作品のひとつとして地位を確立している。
アニメ化はなぜそこまで『呪術廻戦』の人気を加速させたのかーーリアルサウンドでも以前解説したように(参考:『呪術廻戦』アニメ化で人気爆発!? 原作の魅力を大きく膨らませた、“死”をめぐる問いかけの強調)、いくつか理由は挙げられるが、本記事では原作で描かれるキャラクターの魅力を丁寧に声の芝居で表現している主人公・虎杖悠仁役の榎木淳弥に注目したい。
足すことも引くこともなく、その瞬間に生まれるリアルな感情を追求する
もともとは仙台にある杉沢第三高校に通っていた虎杖悠仁。人並み外れた身体能力は持つものの、呪力はなく、呪術師とは無縁の世界にいる“普通の”高校1年生だった。学校帰りに唯一の肉親である入院中の祖父を見舞う日々が続いていたが、そんな祖父も「お前は強いから人を助けろ」、「大勢に囲まれて死ね」と言い残して他界する。
その夜、呪術高等専門学校1年の伏黒恵に出会い、オカルト研究会の先輩たちを助けるために特級呪物「両面宿儺(りょうめんすくな)の指」を飲み込んだことから、「呪いの王」とも呼ばれる宿儺と身体を共有、強力な呪力を手にすることになる。本来なら呪術規定に基づき秘匿死刑になるところが、特級呪術師・五条悟のはからいで呪術高専に転校し、呪術師として戦うことになるーー。
というのが物語のざっくりとした導入だが、ここで注目すべきは悠仁が呪術に縁のない“普通の”高校生であったこと。普通の生活を送っていた主人公が事件に巻き込まれたり、誰かと出会うことで物語の波にのまれていくことは珍しくないが、TVアニメ『呪術廻戦』第1話の悠仁は、原作で得た印象どおりの“普通の”高校生に感じたことをよく覚えている。例えば、祖父の死に実感がわかない悠仁の表現。「実感はわからないけれど、それでもわずかに哀しさや戸惑いが含まれているんじゃないか」といった演者の自我がまったく感じられない、等身大の“原作で描かれている、実感がわいていない虎杖悠仁”がそこに居た。
これこそが、声優・榎木淳弥の真骨頂である。足すことも引くこともなく、その瞬間瞬間で得られるキャラクターの心情をまっすぐに表現する彼の芝居は、ともするとアニメ慣れしている視聴者には淡白に映ることもあるかもしれない。デフォルメされた芝居ではなく、ナチュラルな芝居ーー彼自身の言葉を借りると「自分がちゃんとそう思って発する、ウソのないリアルなセリフ」を好み追及する榎木のスタイルは、ハマる作品とそうでない作品があるのも事実だろう。そういう意味では、『呪術廻戦』の虎杖悠仁は完全にハマり役だった。
序盤に登場するおもなキャラクターは最強の呪術師・五条悟、悠仁と同じ学年ながら呪術師としてすでに成熟している伏黒恵、呪術高専の学長・夜蛾正道、そして呪いの王・両面宿儺と、強烈なインパクトを与える“普通じゃない”キャラクターばかり。彼らに巻き込まれていく悠仁は視聴者から最も近い存在に映り、そんな悠仁に榎木のリアルな芝居が乗ることで、視聴者はますます“自分ごと”として物語に没入していく。