原作漫画とアニメが双方向に高め合う『呪術廻戦』 背景にはMAPPAの“翻訳力の高さ”あり

 原作漫画、アニメ共に今やニュースを見かけない日はないほど注目の集まる『呪術廻戦』。7月2日より、“聖地”渋谷で大規模展示「アニメーション 呪術廻戦展」が開催となり、また『劇場版 呪術廻戦0』のクリスマスイブ公開に向けても、更なる盛り上がりを見せている。そんな『呪術廻戦』は、原作漫画とアニメが非常に強く結びつき、相互に高め合っている点も大きな特徴。今回は、その他に類を見ない蜜月による相乗効果を掘り下げていく。

原作者・芥見下々も太鼓判 TVアニメ『呪術廻戦』スタッフの「翻訳力」の高さ

『呪術廻戦』公式サイトより引用

 『呪術廻戦』のアニメを手がけているのは、今最も勢いのあるアニメ制作スタジオと言っても過言ではないMAPPAだ。『TVアニメ 呪術廻戦 公式スタートガイド』では、担当編集・片山達彦が、過去作の素晴らしさはもちろん、制作にかける意気込みや熱量の高さから、原作者・芥見下々とも「MAPPAさんしかないよね」と話していたと振り返っている。そんな原作者も太鼓判を押すMAPPA、そしてアニメーターほか製作に携わるスタッフの気概は、TVアニメ『呪術廻戦』の随所に見られる。

 まず、漫画作品の場合、原作に忠実にアニメ化する際でも、アクションシーンやコマの間の描写などを膨らませる必要がある。また、音楽や声優の声の演技で情報量も増える分、静止画で描かれる漫画をそのまま動画であるアニメにすると、ニュアンスが変わってしまう可能性も考慮しなければならない。加えて、原作者やファンを納得させるためには、膨らませたシーンや構成を変えた箇所が蛇足や改悪にならず、「しっかり原作のエッセンスを汲み取っている」と感じさせる必要がある。TVアニメ『呪術廻戦』はその点で、漫画からアニメへの「翻訳力」が非常に秀でた作品と言える。

 例えば、虎杖が最初の両面宿儺の指を取り込むまでのエピソードの中だけでも、多くの注目ポイントがある。心霊現象研究会の先輩の危険を察知して杉沢第三高校に向かった虎杖が、伏黒に「ここにいろ」と釘を刺された後のシーン。原作第1話では、黒バックに虎杖のモノローグが浮かぶシーンだ。一方、TVアニメ第1話では虎杖がフェンスの前に立ちすくむ様子や、彼の手の震え、唇を噛んだ後の決意の表情を描写。彼の感じた恐れや寂しさ、そして葛藤から決意と、走り出すまでの心情の変化が理解しやすくなっている。漫画に比べ、よりメディアとして分かりやすさが求められるTVアニメでは、非常に重要なポイントだ。

 アクションも同様に、原作のエッセンスを抽出して膨らませている。圧巻だったのが、TVアニメ第2話冒頭での五条vs宿儺の始まりのシーン。原作では余裕綽々の五条に宿儺が後ろから飛びかかるも、攻撃は当たらず、逆に宿儺の背後に五条が立っている。しかし、TVアニメでは攻撃を避けた後、四つん這い状態になった宿儺の上に、五条が脚を組んで腰かけているという流れに。その上、原作では初撃を避けた後は中断した喜久福の話を、TVアニメではそのまま続行。この時点で五条の「僕、最強だから」という言葉が更なる説得力を持ち、「五条=最強」であることが一目瞭然のシーンとなった。

 そして、作品全体を通しても大きな見所となるのが、領域展開のシーン。『SWITCH Vol.39 No.3 特集 MAPPAの現在形』などで、朴性厚監督が特に芥見と綿密にやり取りを重ねたと語っている。例えば、第23話で描かれた伏黒の領域展開「嵌合暗翳庭」のシーンについては、6月27日に開催されたイベント「MAPPA STAGE 2021 -10th Anniversary-」に登壇したアニメーションプロデューサー・瀬下恵介が以下のように語っていた。

 瀬下は伏黒について、実はここまで明確な勝利を収めたシーンがなく、「殴られている時ですら顔が整っている」と分析。しかし、この話での特級呪霊との戦闘は、伏黒が以前五条に指摘されていた「本気の出し方 知らないでしょ」という言葉を乗り越え、初めて勝つシーンだ。そのため、瀬下は朴監督やメインスタッフと、「限界まで不細工でいいよね」と相談。原作でも伏黒は頭や鼻から流血し、汗もダラダラかいており、それを表現するためにTVアニメでもあえて絵が濃い総作画監督を充てたという。その試みは成功し、正に「不細工もいいとこだ!! だが今は、コレでいい!!」という伏黒の台詞が効くシーンになった。

「アニメだから出来ることを」随所に光るスタッフの気概

 このように、原作の面白さを最大限に表現しようと様々な試みをするTVアニメ『呪術廻戦』の根底には、製作発表時から朴監督をはじめスタッフがしばしば口にしている思いがある。それは「原作にリスペクトを持って忠実に、尚且つアニメだから出来ることを」。シリーズ構成・脚本を務める瀬古浩司は、「原作の持つ世界観をアニメという映像表現で再現するという点を意識しました」と、『週刊少年ジャンプ 2021年1号』にて語っていた。

 TVアニメ放送時には、近年では少なくなっている、アニメーターの個性を強烈に打ち出した回もしばしば話題になった。真人が領域展開「自閉円頓裹」を見せる第13話は、絵コンテ・演出に加え、作画監督と原画の一人としても田中宏紀が参加した回だ。この回では、真人が死という新たなインスピレーションを得る感情の揺らぎを、右目の動きや瞳孔の微細な変化で表現。花が開くようにねっとりと手が展開していく「自閉円頓裹」や、宿儺に斬られた際に真人が肩から血飛沫を上げる様子も、リアルさと外連味の絶妙なバランス感覚で描写し切っている。『呪術廻戦』公式Twitterで投稿された芥見からの2021年の新年のメッセージでは、「アニメ13話は田中宏紀さん健在!!という感じで本当にすごかったですね!」とコメントが寄せられていた。

 また、TVアニメ『呪術廻戦』の中でも屈指のアクション作画回である第19話も、大きな注目が集まった。この回では、先日TVアニメ『チェンソーマン』でも監督を務めることが発表された中山竜が絵コンテ・演出を務めている。同作ではアクションディレクターを務める吉原達矢が担当した黒閃を撃つ直前の虎杖のシーンや、アニメーターげそいくおの打撃の重みまで感じられる虎杖&東堂の連携なども見所だったが、視聴者が度肝を抜かれたのが渡辺啓一郎の担当したシーン。左腕を解放した花御の放つ巨大な樹木を、虎杖&東堂が踊るように避け、連携しながら駆け抜ける、流麗ながらもダイナミックさの光るシーンだ。このように、とにかく面白い作品を作ってファンの度肝を抜こうというTVアニメスタッフ陣の試みには、枚挙に暇がない。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「アニメシーン分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる