人種・性別・文化を超えた“相互理解”へ 更新されるドラマシリーズ『マスター・オブ・ゼロ』

人種・性別・文化を超えた“相互理解”へ 更新されるドラマシリーズ『マスター・オブ・ゼロ』

 アジズ・アンサリ自身を投影したドラマシリーズ『マスター・オブ・ゼロ』の最新シリーズ、「愛のモーメント」が5月23日より配信されている。第1章から第5章まで、21分から56分まで尺を変えて“あるカップルの愛の風景”を描き出す手法は、タイムテーブルやスケジュールに縛られた放送や劇場上映とは異なる配信時代ならではのものだ。アンサリは、シーズン2でも全10エピソードのうち1話だけ他のエピソードの倍近い尺を使う実験をしている。

(左から)アジズ・アンサリ、アラン・ヤン (c)Eric Charbonneau/Netflix

 『マスター・オブ・ゼロ』は、インド系アメリカ人コメディアン・役者として人気を博すアジズ・アンサリが、台湾系アメリカ人アラン・ヤン(脚本・制作総指揮、2020年の『タイガー・テール ―ある家族の記憶―』で監督デビュー)とともに、ニューヨークで暮し働くマイノリティたちの日常を描いたシリーズ。2015年にシーズン1、2017年にシーズン2が配信されている。デフ(アジズ・アンサリ)は映画やドラマでちょい役を貰えるくらいには成功している30代の俳優で、いつもつるんでいる仲間は台湾系のブライアン、もっさりした白人のアーノルド、黒人でレズビアンのデニース。シーズン3は、デニースを演じるリナ・ウェイスが共同で脚本を書き主演している。ウェイスは、アンサリとともに執筆した『マスター・オブ・ゼロ』シーズン2エピソード8の「サンクスギビング」でエミー賞コメディ部門脚本賞を受賞、ダニエル・カルーヤ主演の『クイーン&スリム』(2020年)の脚本でも評価を受けた。役者としても、『レディプレイヤー1』(2018年)、『ウエストワールド』(2016年~)に出演し、今ハリウッドで最も注目を集める俳優の一人だ。ちなみに、『クイーン&スリム』の監督は「サンクスギビング」を演出したメリーナ・マツーカスが務めている。

MASTER OF NONE. Cr. COURTESY OF NETFLIX (c)2021

 「愛のモーメント」で描かれるのは2017年のシーズン2から数年後。ニューヨーク・タイムズのベストセラーに選ばれるような人気作家となったデニースは、NY北部の瀟洒な一軒家で妻のアリシア(ナオミ・アッキー)と暮らしている。インテリア・コーディネーターを目指すアリシアのセンスで飾られた家は完璧で、ふたりの結婚生活は満ち足りたものに見える。だが、デニースとアリシアがデフと恋人(フランチェスカではない……)をディナーに招待し、植毛の是非や彼らがクイーンズのデフの両親の家で同居している話題が出た頃から状況が変化する。デニースとアリシアの夫婦間にも、結婚生活や家族計画に関するさまざまな議論が生じていた。どうしても子どもが欲しいアリシアはIVF(体外受精)クリニックの門を叩く。

 シーズン1ではウディ・アレン、シーズン2では『自転車泥棒』(1948年、ヴィットリオ・デ・シーカ監督)に代表されるイタリア・ネオレアリズモ、そしてシーズン3はタイトルや第1章のデニースとアリシアのベッドでの会話シーンの撮り方からも明らかなように、イングマール・ベルイマンの『ある結婚の風景』(1974年)がモチーフとなっている。ウディ・アレンは熱狂的なベルイマンのファンとして知られ、2012年に英国の映画誌「Sight and Sound」のために選出したオールタイムベスト10作品に『自転車泥棒』を挙げているので、アンサリ演出の変遷は当然のなり行きだろう。

MASTER OF NONE. Cr. COURTESY OF NETFLIX (c)2021

 画面アスペクト比も、シーズン1と1はシネマスコープ(2.35:1)だったのが、シーズン3ではドラマシリーズとして撮られた『ある結婚の風景』と同じ3:4のスタンダードサイズを採用、全編がフィルムで撮影されている。今やシネマスコープや16:9のワイドサイズで撮られたドラマを見慣れてしまった視聴者としては、3:4の画角の狭さを少し窮屈に感じる。そしてこの閉塞感が、2021年にこのドラマが配信された理由とも取れる。

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