『ここぼく』が告発する意味の捏造 松坂桃李演じる危機感のない主人公のリアル

『ここぼく』が告発する意味の捏造

 難しいことを考えたくない真は、意味の板挟みになってもがく。混乱した頭で向かったみのりの実家のスナックで、気付かないうちに元カノの味方をしようとしたのは、みのりに対する本心だったのでは? それが多分に誰も傷つけたくない自身の臆病さに由来するものだったとしても。真の変化はひとたび関わってしまった以上、いつまでも優柔不断ではいられないことも示している。

 1人の勇気ある女性の告発は大学当局の前に敗れた。あっけない幕切れだった。澤田が酔って羽目を外さなければ、たまたま週刊誌記者が居合わせなければ、あるいは不正は暴かれて、岸谷は責任を取っていたかもしれない。しかし、自らの頬を差し出した広報担当者のファインプレーによって、すんでのところで大学は難を逃れた。めでたし、めでたし。落ち着くところに落ち着いて振り返ると、勝負は最初から決まっていたようにも思える。みのりは負ける運命だったのだと。

 バスターミナルで真はみのりに「出会えてよかった」と言う。「こんなにちゃんといろいろ考えてる人もいるんだなって。俺も頑張んなきゃなって」。触発されてなお自分のことが先に立つ残念な真に、みのりは個人的な感謝を伝える。それは10数年前に虚しく終わった2人の関係に終止符を打つもので、真の存在はみのりにとって救いになった反面、敗北の苦さがひときわ残った。今回の一件で真は何を得たのだろうか? それはいずれ明かされるはずだ。

■石河コウヘイ
エンタメライター、「じっちゃんの名にかけて」。東京辺境で音楽やドラマについての文章を書いています。ブログTwitter

■放送情報
土曜ドラマ『今ここにある危機とぼくの好感度について』
NHK総合にて、毎週土曜21:00〜21:49放送 ※4K制作
出演:松坂桃李、鈴木杏、渡辺いっけい、高橋和也、池田成志、温水洋一、斉木しげる、安藤玉恵、岩井勇気、坂東龍汰、吉川愛、若林拓也、坂西良太、國村隼、古舘寛治、岩松了、松重豊ほか
作:渡辺あや
音楽:清水靖晃
語り:伊武雅刀
制作統括:勝田夏子、訓覇圭
演出:柴田岳志、堀切園健太郎
写真提供=NHK

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