『はな恋』のAwesome City Clubも 本人役で映画に登場するミュージシャンが果たす“機能”とは

映画に本人役で登場するミュージシャンの機能

劇中で効いてくるアーティストのイメージ

 「もしも自分以外誰もビートルズを知らない世界になってしまったら?」というユニークな設定で話題を呼んだ『イエスタデイ』(2019年)には、エド・シーランが本人役で出演している。2011年のデビューから快進撃をつづけていた彼が演じたのは、ビートルズの楽曲で図らずも有名になってしまった主人公ジャックに声をかけ、ともにコンサートをするという役回りだ。2017年にリリースしたシングル「シェイプ・オブ・ユー」でグラミー賞を受賞するなどミュージシャンとして躍進していたシーランは、言わば“成功”の象徴だろう。その彼が関わることで、主人公の置かれている状況がよく分かる。同時に彼の活動や楽曲についてのジョークが挟まれることで、フィクションは現実とつながっていく。

『イエスタデイ』(c)2019 Universal Studios and Perfect Universe Investment Inc. All Rights Reserved.

 一方で、演奏シーンはないが本人役として登場し、その存在感を見せつけた例もある。2001年のコメディ映画『ズーランダー』に出演したデヴィッド・ボウイは、意外な役回りでおいしいところをかっさらっていった。同作には数多くの有名人がカメオ出演しているが、ボウイの出演シーンは特に長く、重要な役割でもある。劇中で彼は、主人公デレクとライバルのハンセルのどちらがファッションモデルとしてランウェイを去るべきか、バカバカしい対決の審判に名乗りをあげる。美しさに固執する男性ファッションモデルを描いたこの作品に、グラムロックのスターであるボウイが出演したのは興味深い。アーティストとしてはもちろん、その美貌でも世界を魅了した彼は、“美しさ”や“パフォーマンス”の良し悪しを判定する存在として最適だろう。ボウイのアーティストとしてのイメージが、その役回りに説得力と可笑しさを与えている。演奏シーンでの出演でなくても、ミュージシャンのイメージが劇中で効いてくる場合があるのだ。

『花束みたいな恋をした』(c)2021『花束みたいな恋をした』製作委員会

 ミュージシャンが映画に登場することで得られる効果は、彼らのイメージによるところが大きい。キャラクターの個性を表現するうえでのアーティストの存在や、時代を象徴する機能も、そのイメージを利用していると言える。コアな音楽ファンに人気のAwesome City Club、70年代にカリスマ的人気を獲得したアリス・クーパー、短期間で成功を手にしたエド・シーランなど、ミュージシャンはある特定のイメージを持っている。そこからキャラクターの個性を連想させたり、時代性を描くことができるのだ。また実在のミュージシャンが本人役で映画に登場することで、劇中と現実の間に不思議なリンクができる。それがメタ的な要素を生むこともある。

 映画も音楽も同じポップカルチャーの1つであり、これらを完全に切り離して考えることはできない。そのなかでも、ミュージシャンが本人として映画に登場することの面白さには、作品の内容を豊かにする別の意味がある。今後もどのような作品にどんなアーティストが登場するのか、注目してみるのも楽しいだろう。

■瀧川かおり
映画ライター。東京生まれグラムロック育ち。幼少期から海外アニメ、海外ドラマ、映画に親しみ、10代は演劇に捧げる。

■公開情報
『花束みたいな恋をした』
全国公開中
出演:菅田将暉、有村架純、清原果耶、細田佳央太、韓英恵、中崎敏、小久保寿人、瀧内公美、森優作、古川琴音、篠原悠伸、八木アリサ、押井守、Awesome City Club、PORIN、佐藤寛太、岡部たかし、オダギリジョー、戸田恵子、岩松了、小林薫
脚本:坂元裕二
監督:土井裕泰
製作プロダクション:フィルムメイカーズ、リトルモア
配給:東京テアトル、リトルモア
製作:『花束みたいな恋をした』製作委員会
(c)2021『花束みたいな恋をした』製作委員会
公式サイト:http://hana-koi.jp

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