『青天を衝け』草なぎ剛、慶喜として見せた“無言の20秒” 大河ドラマ史に残る桜田門外の変
大河ドラマ『青天を衝け』(NHK総合)第9回「栄一と桜田門外の変」では、本作における重要な人物が次々と命を落としていく。その一人が大老・井伊直弼(岸谷五朗)、そして水戸藩主・徳川斉昭(竹中直人)である。
タイトルが示す通りに、今回の物語の中核を担うのが桜田門外の変だ。幕府の屋台骨を揺るがし、その権威を地に落とすこととなる事件。襲撃したのは水戸家中の浪士、狙いは安政の大獄により斉昭に永蟄居を命じた直弼だ。
桜田門外の変については、これまでの大河ドラマにおいても幾度となく描かれてきた。降りしきる雪で真っ白の桜田門を赤く染め上げる鮮血。駕籠に乗っていた直弼は銃撃にて命を落とす。喚声と刃音を駕籠の外に聞き、直弼が思いを馳せるのは日本の行く末。刀で止めを刺された直弼は……と、この先は気になる方だけ調べていただきたいが、特徴的なのは水戸で庶子たちと雪遊びをする斉昭との対比、そしてバックに流れる狂言「鬼ヶ宿」だ。
家中を離れた浪士たちが下手人となって直弼を襲撃していることを斉昭は後に知ることとなる。「鬼ヶ宿」は直弼が脚本を書いた狂言。自身の身を案じた家茂(磯村勇斗)に心配はないと自信たっぷりに披露した演目だ。直弼は安政の大獄で処罰した者の名前を朱色の墨汁で消していたが、奇しくも最期は自身の血の色で持っていた「鬼ヶ宿」の脚本を汚すこととなる。
そして、斉昭は胸に激しい痛みを覚え急死する。死に際にも水戸と妻・吉子(原日出子)を思う斉昭。慶喜(草なぎ剛)は隠居、謹慎を食らい、父の死に顔すら見ることができなかった。部屋から一歩も出ずに“剛情息子”として心配されていたのは、身に覚えのない罪を被った者としての意地から。そんな慶喜でも徳信院(美村里江)から告げられる訃報に言葉をなくす。20秒余りにもなるその長い間は、じっと慶喜を映し続ける。微かに動く長く生えた髭に、少しだけ潤った瞳。その慶喜に、草なぎ剛にだけ許された超尺の間に、斉昭の最期を看取ることができなかった無念と幕府への恨みが込められている気がした。