フローレンス・ピューが『ミッドサマー』名シーンの撮影を振り返る 「誇るべき数時間でした」

 マーベル・スタジオ作品『ブラック・ウィドウ』に出演する俳優のフローレンス・ピューが、過去の出演作『ミッドサマー』での撮影についての思い出をInstagramに投稿した。

 日本では2020年2月21日より全国公開され、ロングランヒットを記録した『ミッドサマー』は、『ヘレディタリー/継承』のアリ・アスター監督が手がけたフェスティバル・スリラー。アメリカで暮らす大学生のダニーと恋人のクリス、その仲間たちは、交換留学生であるペレの故郷スウェーデンで夏至(ミッドサマー)に行われる祝祭に誘われる。その村では、90年ごとに9日間の浄化の儀式が行われ、人々は着飾って様々な出し物をするのだという。人里離れたヘルシングランド地方、森の奥深く、美しい花々が咲き乱れる“ホルガ村”を訪れた5人は、“白夜”のもと、優しく穏やかな村人たちから歓待を受ける。しかし、閉鎖空間の中、次第に不穏な空気が漂い始め、ダニーの心はかき乱されていく。それは想像を絶する悪夢の始まりだった。

 映画の中でピューが演じたダニーは、一度に家族全員を失ったトラウマに囚われ、何度も声を押し殺して泣く。それでも漏れてしまううめき声がリアルで、彼女の悲しみは画面越しの我々に痛いほど響く。物語がクライマックスに近づくにつれてその迫真性は増していき、泣かないように感情を押し殺そうとした彼女を村人の女性らが囲んで感情を解放させてあげるシーンは圧巻だ。しかし、撮影時に感じたことを写真とともにInstagramに投稿したピューは、あれだけ劇中に何度も泣いていたのに「これまで泣く演技ができないタイプの俳優だった」と語る。

 
 
 
 
 
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Florence Pugh(@florencepugh)がシェアした投稿

「この写真を投稿するタイミングをずっとうかがっていました。これを撮った時のことを覚えています。みんなにとって特別な瞬間であり特別な日だったから。そう、これは“あの”シーンです。あのシーンに関わった皆が、撮影までに何日かかったかも正確に覚えています。私たちは感情を全て吐き出してお互いの顔に向かって泣き叫んだ。幸運なことに、アリ(・アスター監督)は私たちが必要としていたことを脚本に書いたんです。1分以内に悲しむ必要があったし、毎ショット撮る度に顔を綺麗にしては最終的に鼻水やしょっぱい涙で腕や胸、頬に手がぐちゃぐちゃになりました。映画の中で私が演じるキャラクターは、とても恐ろしいものを目の当たりにしたばかりで、ショックを受けてその後吐きます。そこで村の女性が彼女を静かな場所につれていき、彼女の感情を鏡のように映し返すのです。ホルガ流の感情や痛みの共有方法なんです。彼等はどんな形のトラウマ(喜びも)、ひとりで抱え込まないでいられるようにシェアします。なのでこのシーンに写っている女性は全員、演技の際に自分たちが思う本当に怖いものや辛いものを乗り越えようとした。この写真は第一ADさんにOKをもらった瞬間のものです」

『ミッドサマー』(c)2019 A24 FILMS LLC. All Rights Reserved.

「ファーストテイクは映画で映されたよりも、ずっと長くああいう風にしたのを覚えている。アリ・アスター監督がカットと言った瞬間、私たちはお互いにしがみつき、手のひらを強く握って泣きました。ずっと泣きじゃくって。すぐに止めることができなかったんです。私はこれまで、簡単にカメラの前で泣けるタイプの俳優ではありませんでした。だからこの演技は私にとってとてもパーソナルなもの。エキサイティングでスリリングな演技の側面を理解していたとしても、私は泣くことがとても怖く、私が泣けないために監督がそのシーンを作り替えなければいけなくなったことも、キャリアの中で何度かありました。この映画で、このシーンで、私は本当のシスターフッドを感じることができた。カメラが回る前に皆で顔を見合わせて、お互いが大変なシーンになることを予感していました。難しいし、少し気まずくて変で、不自然な風になると。楽しくはならないだろうと。しかし撮影が終わる頃には、みんな膝を抱えあって泣き、お互いの体が震えるのを許した。これが映画撮影の面白いところです。撮影前は頭で理解し準備できても、いざカットされると、時々(そして美しいように)自分の体がその『カット』という言葉を理解せず、ただその感情のままでいるんです」

「この時のことを写真に収めたのは、もうこんな風にしてこの場にいた女性と出会うことが今後ないとわかっていたから。さらに心配なのが、もしかしたらこんな演技を自分が絶対できないかもしれないし、彼女たちに二度と再会できないかもしれないこと。もしかしたら、今後この奇妙でクレイジーな人生の中で再び出会うかもしれない。この才能あふれる女性たちに、他の映画のセットで出会えるかもしれない。しかし、私がそうであってほしいと願うほど、そういったことは起きないのです。こんなにオープンになって自然な自分を曝け出し、疲れた経験は今後もうないかもしれないけど、願うことはできますよね。私たちは2時間悲しみ、泣き叫んだあと、立ち上がった。そしてお互いを抱きしめ合い、見つめ合って、少し不安げに笑って、また少しだけ泣きました。そして、みんな家に帰ったのです」

「このシーンがあなたにとって痛々しいものかもしれないし、恐怖にすくむかもしれないし、スクリーンから目をそらしてしまうかもしれない。観る人により人間を意識させるように作られた10秒ほどのシーンだったかもしれないけれど、私たちにとっては数時間でもありました。美しく、困難で、誇るべき数時間でした」

 『ミッドサマー』のヒロインに抜擢され、真に迫る演技を披露したことをきっかけに、その後話題作へのオファーが止まらないフローレンス・ピュー。ナターシャ・ロマノフの妹役として彼女が出演する『ブラック・ウィドウ』は4月29日に全国公開予定だ。

『ブラック・ウィドウ』予告編

■アナイス(ANAIS)
映画ライター。幼少期はQueenを聞きながら化石掘りをして過ごした、恐竜とポップカルチャーをこよなく愛するナードなミックス。レビューやコラム、インタビュー記事を執筆する。InstagramTwitter

■公開情報
『ブラック・ウィドウ』
4月29日(木・祝)公開
監督:ケイト・ショートランド
出演:スカーレット・ヨハンソン、レイチェル・ワイズ、フローレンス・ピュー、デヴィッド・ハーバー
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
(c)Marvel Studios 2020

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