杉咲花からも滲み出る“役を愛した時間” 『おちょやん』が描く演じることの本質

『おちょやん』千代やルリ子たちの最高の芝居

 一平(成田凌)率いる新しい喜劇一座「鶴亀家庭劇」が船出した『おちょやん』第10週。しかし、歌舞伎や歌劇団といった出身がバラバラの役者たちばかりが寄せ集められ、一致団結しないまま、千代(杉咲花)たちは旗揚げ公演初日を迎えた。

 さらに、舞台の上では千之助(星田英利)が座長である一平や仲間に断りもなく独断で行動する。千代はようやく心を開いてくれた新派出身のルリ子(明日海りお)や他の団員たちと共に、千之助の暴走をとめるべく奔走。だが、千之助は文句のつけようもなく観客を笑わせ、一方の千代たちは彼のアドリブへ対応するのに精一杯だった

 そんな時、救世主として現れたのが千代の師匠・山村千鳥(若村麻由美)。彼女のアドバイスを受けた千代たちは、自分が演じる役の人物像を朝方まで掘り下げ千秋楽に臨んだ。千之助はというと、「いつもより余計に回しております」と言わんばかりにアドリブを盛り込み、終いにはルリ子が消し去りたい過去にも容赦なく触れる始末。ルリ子は一瞬戸惑いを見せたが、千代の粋な計らいで正気を取り戻し、トラウマを克服するように夫役の千之助と対峙した。「あなたにだけには信じてほしかった」という台詞が、かつて後輩と婚約者に裏切られたルリ子自身の思いと重なり涙を誘う。

 ルリ子だけではなく、小山田(曾我廼家寛太郎)や香里(松本妃代)、千代ももう千之助に振り回されるだけの役者ではない。むしろ千之助を振り回さんと、台本にはないセリフと行動で観客を笑いの渦に巻き込み、最後は感動的な展開で鶴亀家庭劇の記念すべき最初の演目「手違い噺」は幕を閉じた。これまで千之助の名前で一色だった投票用紙には、千代やルル子たちの名前がまざっている。この日観客の心が動いたのは、登場人物がどれもちゃんと“生きていた”からだ。

「演じるということは、役を愛した時間そのもの」

 この千鳥の言葉で、千之助に勝つことだけを目標にしていた千代たちは初めて自分の役と向き合った。その役がどこで生まれ、どんな性格を持ち、これまでどんな人生を歩んできたか。きっと一人ひとりの人生に、涙あり笑いありのエピソードが詰まっている。それを演じる役者自身が理解していれば、物語に深みが生まれ、観客にもその思いが伝わるのだろう。

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