山口つばさの圧倒的な構図はどう活かされる? アニメ『ブルーピリオド』への期待
作品に詰まったクリエイティブの真髄
美術的な側面に注目しがちだが、キャラクターの感情の生々しさも『ブルーピリオド』を構成する大きな要素だ。
完全な素人として美大受験を決めた八虎は、圧倒的に上手い予備校の同級生たちと出会い、自分との実力差を思い知って心折れそうになる。少し技術が身につき、上達したと喜んだのもつかの間、絵の『上手さ』は『良さ』ではないと突きつけられる。八虎の前には、これでもかとばかりに壁が立ちはだかってくる。
八虎が、同級生の高橋世田介から「美術じゃなくてもよかったクセに」と言われるシーンがある。要領がよくなんでも人並み以上にできてしまう八虎だが、そのせいで自分の絵に対する想いを軽んじられ、強烈な悔しさを抱いてキャンバスに向かう。
死ぬほどこわいよ/でもそれ以上に/ひれ伏させたい/俺の絵で/全員殺す/そのためならなんでもする
歯をくいしばり、目には涙を浮かべて絵筆を走らせるその絵からは、八虎の怒りと悔しさ、絵に対する熱意がほとばしる。
先ほどの「縁」での見開きもそうだが、これらの構図の良さは、一枚絵だからこそ際立つものがある。思わずこのページでめくる手を止め、表情や陰影に見入ってしまうようなパワーがあるのだ。この迫力がアニメで出せるのか、あるいはアニメーションらしさを活かしたアレンジでアプローチするのか、実際の放送で注目したいシーンだ。
八虎だけではない。圧倒的な技術は持っているが、型にはめようとする「受験絵画」に反発する世田介。家族全員藝大一家というプレッシャーを背負う桑名マキなど、それぞれが苦しみ、もがきながら、受験に向けて戦っている。答えのない美術の世界で、「才能」という見えないものに翻弄され、それでも手放せない絵に対するプライドと情熱が彼らに筆を握らせる。読めば読むほどに、『ブルーピリオド』にはクリエイティブの真髄が詰まっている。
アニメ『ブルーピリオド』は、制作会社やキャスト陣などがまだ発表されておらず、どんなものになるか未知だ。だが、漫画が「絵の表現」にチャレンジし続けているように、映像でどれほどの表現ができるのか、アニメーションもその力量が試されることになるだろう。八虎が飲み込まれそうな気分を味わった美術の世界の魅力を、アニメでも味わえることを期待しながら、放送開始を待ちたい。
■満島エリオ
ライター。 音楽を中心に漫画、アニメ、小説等のエンタメ系記事を執筆。rockinon.comなどに寄稿。満島エリオ Twitter(@erio0129)