ワーナー作品の“劇場公開と同時にHBO Max配信”が意味すること 業界を騒がせた問題を解説

ワーナーのHBO Max配信問題を考える

ハリウッドの映画人たちの見解は?

 さて、ノーランがワーナーの決断を気に食わないことも、HBO Maxのことを「最悪のストリーミングサービス」と貶していたことも、ネット上で話題になっている。それに対し、ワーナー側が「でもお前が劇場公開にこだわった『TENET テネット』、全然だめだったじゃん」と言い返し完全に泥試合化。

 確かに、『TENET テネット』の全米の成績はイマイチだった。過去作の成績を考えると、本来なら初週に回収できていたはずの4500万ドルに到達したのは、公開5週目。日本や中国などの世界興収の成績が良い(3億ドル超え)が、製作費だけで2億ドルがかかっている本作、完全に赤字なのだ。

『TENET テネット』(c)2020 Warner Bros Entertainment Inc. All Rights Reserved

 その数字を、逆に配信するべき理由の一つに捉えられてしまったノーラン。彼が一番に怒っていることは、映画館で上映することを前提として作っている映画を、映画館で流さないことにある。これまで、映画史に残る映像生み出してきた彼は映画館での映像環境に対し誰よりも熱心に取り組んできた。そんな彼が発表した声明文には「最高の映画スタジオのために仕事をしていたが、翌朝目が覚めたら最悪のストリーミングサービスに仕事していたことになっていた」と、ある。大画面で観るからこそ価値のあるもの。それは、映画ファン側にとってもわかる感覚ではないだろうか。いくら配信の方が家にいながら簡単に最新作を観ることができたとしても、それは期待していた通りの映画体験ではない。一度、楽な方向に流れてしまうと、果たして以前の慣習、つまり劇場に映画を観に行く日常は残り続けられるのだろうか。

『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』(c)2020 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved. BIRDS OF PREY and all related characters and indicia c&TM DC Comics.

 ノーラン以外にも、本件について見解を述べた人物がいる。ワーナーの製作するDC作品で最も人気のあるキャラクター、ハーレイ・クインを3作品に渡って演じたマーゴット・ロビーだ。ただ、彼女はワーナーに対して比較的“たてる”ような意見を述べた上で「この問題が解決し、ワーナー・ブラザーズがストーリーテラーたちのために正しい行いをしてくれることを期待している」と、コメント。なお、これまで『死霊館』シリーズなどのヒット作でワーナーに大いに貢献してきたジェームズ・ワンの見解が今、最もハリウッドで注目を浴びているが彼はおそらく中立の立場を貫こうとしているようで、その口を硬く閉ざしている。

 しかし、果たしてマーゴット・ロビーのように“期待する”でいいのだろうか。ワーナーは現在、劇場公開と同時に配信する作品を2021年のものに今のところ限っている。しかし、多くの米映画ファンはそれまでにワクチンが普及することを想定したうえで、一刻も早く映画館に再び通うことを重要視している。なぜなら、先述の通り映画館の限界はもうすぐそこまできているから。すると、配信前提の予算感で作られた映画ばかりが溢れることになるし、例えどれだけ最新映像技術を駆使した大作を発表されても、小さなスマホスクリーン、日常的なリビングのテレビで流れたらそれは生きない。映画とは、やはり便利であるべき以前に“非日常”であるべきなのではないだろうか。日本ではまだサービス開始の目処も立ってすらいない、HBO Max。しかしそのインパクトは、必ず我々も受けるはずだ。

参照

・DC's Margot Robbie Comments on Warner Bros.' Plans To Release New Movies On HBO Max|CINEMABLEND
・AMC warns it’ll run out of cash in January, calls out Warner Bros.’ shift to HBO Max|THE VERGE
・The shift of traditional media from old Hollywood to streaming services|CNBC

■アナイス(ANAIS)
映画ライター。幼少期はQueenを聞きながら化石掘りをして過ごした、恐竜とポップカルチャーをこよなく愛するナードなミックス。レビューやコラム、インタビュー記事を執筆する。やっぱり映画は映画館で観たい派。InstagramTwitter

■公開情報
『ワンダーウーマン 1984』
全国公開中
監督:パティ・ジェンキンス
出演:ガル・ガドット、クリス・パイン、クリスティン・ウィグ、ペドロ・パスカル、ロビン・ライト
配給:ワーナー・ブラザース映画
(c)2020 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved TM & (c) DC Comics

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