HBOはなぜ往年の名作を蘇らせた? 現代と深くリンクする『ペリー・メイスン』のテーマ

現代と深くリンクする『ペリー・メイスン』

 近年の動画配信サービス台頭により根付いたビンジウォッチ文化で悩ましいのが、序盤であまり目新しさのないドラマを観続けるかどうか。E・S・ガードナーによる推理小説をベースにした往年の人気TVドラマ『弁護士ペリー・メイスン』(CBS系)を時代設定はそのままに、現在、スターチャンネルEXにて配信中の今の時代にアップデートしたHBO新作ドラマ『ペリー・メイスン』も、往年の人気ドラマのリメイクと聞くだけで、最近特にそういう作品が多いのでまたか……と思わなくもない。だが、さすがのHBO。ただのリメイクでは終わらせない。主人公ペリー・メイスン演じる(くたびれた人を演じさせればピカイチな)マシュー・リスをはじめとした俳優たちの素晴らしい演技と、1930年代初頭世界恐慌で荒むロサンゼルスを最新のVFXも駆使し、温度や香りまでも漂うような濃厚なビジュアルに仕上げている。直近で配信がスタートした第4話から最終話にかけて、クライム・ノワールから法廷劇へと発展するドライブ感と重厚さは、来年のエミー賞に絡むのではないかと思う見事な出来栄えだ。今回は俳優陣の魅力だけに留まらない、本作の魅力をお伝えしていきたい。

※次段落以降、一部ストーリーに関するネタバレあり

次第に明るみになる絶望的な社会構造の闇

 1930年代初頭にロサンゼルスを震撼させた乳児誘拐殺人事件の被疑者を弁護する旧知の弁護士EB・ジョナサン(ジョン・リスゴー)から依頼を受けた、私立探偵のペリー・メイスン(マシュー・リス)。しかし、検察がフェイクニュースさながらに、状況証拠のみで被疑者を極悪人に仕立てメディアを煽り、日に日に無罪立証が難しくなっていく。真実を証明するため、彼と相棒のピート(シェー・ウィガム)の捜査により、事件に隠された検察と警察そして新興宗教団体RAGの存在が見えてくる。

 「黒幕にいる権力」として検察や警察の登場はありがちながらも、フェイクニュースに隠れた闇が炙り出される過程には釘付けになる。また、第4話以降で描かれる白人男性特権階級の腐敗は現代にも通じていく。社会は彼らのエゴと地位、財産を守るためだけに存在して犠牲になっているのではと、絶望すら感じるストーリー展開は見応え充分だ。

 中でも地方検事で次期市長に立候補予定の地方検事メイナード・バーンズ演じるスティーヴン・ルートの悪代官ぶりはひたすらに憎たらしい。ただ憎たらしいだけでなく、社会構造を充分に活かし、賢く根回しし尽くすスマートさも兼ね備えており、憤りのやり場に困るほどだ。そして、現実世界と同様に『ペリー・メイスン』においてもピンチに現れる救世主のようなヒーローはいない。そんな視聴者を突き放すような展開にも唸る。

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