ワーナー作品の“劇場公開と同時にHBO Max配信”が意味すること 業界を騒がせた問題を解説

ワーナーのHBO Max配信問題を考える

 ワーナー・ブラザースが、2021年に公開予定の新作を劇場公開と同時にHBO Maxに配信することを決定し、業界が揺れ動いている。そもそも日本ではまだ開始されていない、このストリーミングサービス。多くの名作ドラマを輩出するアメリカの有料チャンネルHBOのコンテンツに、ワーナーが保有している作品ライブラリーを加えたもので、2020年5月末からアメリカで開始されたばかりだ。そんなサービスが、映画館の命運を握っている。日本は蚊帳の外、というのも実は違う。本件がなぜ今ハリウッドで最もコントロバーシャルな話題で、世界中の映画ファンに関わってくることなのか。

HBO Maxの背景 映画業界を数字だけで捉えるAT&Tの所業か

 まず、そもそも今回の騒動の発端は2018年まで遡る。当時アメリカの大手電話会社AT&Tにワーナー・メディアが買収された。ワーナー・メディアはHBOの親会社ということもあり、AT&T側の要求でコンテンツを量産することに重きを置き始める。当時、AT&Tの買収目的は主に動画のターゲット広告のようなアドだった。そして2020年4月にHuluのCEOのジェイソン・キラールがワーナー・メディアのCEOに就任。これが、同社にとってストリーミングサービス、つまりHBO Maxを主軸とした事業にのぞんでいく大きなきっかけになる。それを大いに活用するつもりだったCEOのジョン・スタンキーは2021年に登場するHBO MaxのAVOD(広告つき)バージョンを、“サブスクリプションと広告の両方に支えられたソフトウェアベースのエンターテイメントプラットホーム”と発表していた。

 ところが、この頃から不穏さはあった。この広告付きHBO Maxについて、ワーナー・メディア側が詳細を知らかったのだ。協議で話題にあげられたが、かなり大まかな内容だったとエージェンシー幹部が語っている。この“共有不足”が今回の騒動にも繋がりを見せている。というのも、この来年劇場公開作全てを公開日に配信するという決定は、興行収入面で大きく関わってくる劇場側にも、制作会社側にも事前によく相談されていなかったからだ。

決断と発表の仕方がまずかった? 業界の信用を一気に失う

『ワンダーウーマン 1984』(c)2020 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved TM & (c) DC Comics

 何故、クリストファー・ノーランがHBO Maxに激怒したのか、それは横の繋がりの強いハリウッドで大きな信頼を失うような決断を勝手にされてしまい、寝耳に水状態だったからだ。当初HBO Maxは『ワンダーウーマン 1984』を劇場公開と同時に配信する作品として告知したが、劇場独占公開で得られただろう収益を映画製作に関わったステークホルダーに補償することが前提だった。これも、少なくない額だが映画関係者からすれば当然されるべきことなのだ。しかし、それ以降に発表された2021年公開映画に関しては、この補償を適用しないと言っている。これにステークホルダーが怒り心頭。

 長年に渡りワーナーで多くのビッグバジェット映画を製作しているレジェンダリー・エンターテインメントは、2021年に『GODZILLA VS. KONG(原題)』や『DUNE/デューン 砂の惑星』に多額の出資をしていた。それにも関わらず、彼らに何の相談もなく、補填もないまま“スクリーンで流す前提で作った映画”を配信されるのだ。無論、ストリーミングサービスの料金体系を考えれば、映画館で独占公開するより興行収入が落ちることは容易く想像できる。補填もなければ、本来の興収も見込めない。作品はひたすらお金を失うことになる。

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