『恋あた』が示した恋愛ドラマの新たな形 中村倫也×仲野太賀が演じた2人の男性像を考える

『恋あた』が示した恋愛ドラマの新たな形

恋が温まりきっていない浅羽の“真の役割”はもしかして……

 新谷誠は、言ってしまえばこれまでの恋愛ドラマによく出てくる「二番目の男」。どう頑張っても、主人公と主人公の好きな人の間に入りきれない、でも物語に多少のエッセンスを与えてくれる「いい奴」。最終的には主人公に振られて、彼女の幸せを笑顔で願ってあげる、そういう男の役割だ。だってどんなに頑張っても、どんなに樹木ちゃんといい感じになっても、肝心なところでイケメン社長が割って入ってくる。彼のことだか二番目の男の役割を全うしてフラれて、「幸せになれよ、拓兄!」なんて笑顔で応援してしまうだろう。でも、私たち視聴者は誠に幸せになってほしい。浅羽には申し訳ないけど、やはり樹木ちゃんと誠がうまくいくことを願ってしまう。なぜなら、私たちは本作を通して素朴だけど一途で温かいまこっちゃんの良いところにたくさん気づけたからだ。

 しかし、それは浅羽(ハイスペックイケメン社長)という比較対象があってこそのこと。つまりこのドラマ、これまで一番手男子と悪い意味で比べられて使い捨てられてきた二番手男子が、逆にいい意味で比べられてその真価をお茶の間に届けることに成功しているのだ。ドラマのなかで“なぜか”恋愛対象に絶対入らせてもらえなかった彼らに巡ってきた好機。ドラマがリアリティ指向となり、登場人物や恋の種類が多様化してきた中で、それを観て胸キュンする視聴者の“イケメンの定義”みたいなものに一石を投じているように思えて仕方ない。まこっちゃんは深夜にラーメン食べに行こうってバイク走らせてくれるし、公私ともに支えてくれる。何より2人だけでUNOがあれだけ楽しく遊べるのだ、もう二番手どころか理想の彼氏像としてしっかりハイスペじゃないか! まこっちゃん系男子はイケメンだ!

 振り返ってみると、恋をあたためてきたのは樹木と里保と誠の3人で、浅羽の恋愛感情はドラマのなかでごく控えめに描かれている。本来、主人公と絶対結ばれる相手ならもう少し彼の感情の行方にフォーカスが当たってもおかしくないのに。しかし、もし誠を引き立たせるためにそう描かれたのであれば、脱帽だ。もし最終回で誠が選ばれなかったとしても、常に二番目で報われない男性の良さを丁寧に、ぞんぶんに引き出したことこそが、本ドラマの真価なのではないだろうか。もう、とりあえず意地悪なイケメンより、優しい等身大の男の子の方が画面の向こう側で一番手になる時代が、すぐそこに来ているかもしれない。

■アナイス(ANAIS)
映画ライター。幼少期はQueenを聞きながら化石掘りをして過ごした、恐竜とポップカルチャーをこよなく愛するナードなミックス。レビューやコラム、インタビュー記事を執筆。まこっちゃんの幸せを誰よりも願う。InstagramTwitter

■放送情報
『この恋あたためますか』
TBS系にて、毎週火曜22:00~22:57放送
出演:森七菜、中村倫也、仲野太賀、石橋静河、飯塚悟志(東京03)、古川琴音、佐藤貴史、長村航希、中田クルミ、佐野ひなこ、利重剛、市川実日子、山本耕史
脚本:神森万里江、青塚美穂
プロデュース:中井芳彦
演出:岡本伸吾、坪井敏雄
主題歌:SEKAI NO OWARI「silent」(ユニバーサルミュージック)
製作著作:TBS
(c)TBS

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