『鬼滅の刃』『君の名は。』大ヒットの要因に　ufotableと新海誠から探るアニメーションの“撮影”の重要性

文＝杉本穂高

　実写映像や写真撮影のライティングの基本的な考え方として、キーライト（メインの照明）、フィルライト（キー・ライトによってできた陰影の緩和）、リムライト（対象の裏からの光）で構成する3点照明があるが、『ゴッドイーター』ではこれをアニメに採用したのだ。従来のアニメ作品は肌が一色、影も一色で表現されるが、3点から光をあてることにより陰影にグラデーションができる。これを撮影のエフェクト処理だけでなく、手描きの作画の段階で計算して行い、背景とマッチングさせている。結果として、従来のアニメでは見たことのない空間を作り上げている。※9

TVアニメ「GOD EATER」　番宣CM (30 sec.)

　『ゴッドイーター』放送当時は、フルCGでの制作かと誤解を受けたが、一部CGも使用されているがれっきとした手描き作品だ。CGという誤解を受けたのは、そのライティングによってあまりに空間の実在感が高まった結果、最初から3D空間を演算して作ったのではと思われたということだろう。

　ufotableは設立初期から自社内に撮影部を立ち上げ、様々な試みに挑戦し、それが『鬼滅の刃』にもおおいに生かされている。新海誠監督同様、積み上げてきた撮影テクニックが多くの人を惹きつけた要因のひとつと言えるだろう。

　ちなみに、『ゴッドイーター』の撮影はufotable撮影部と、アニメ撮影の老舗、旭プロダクションが共同で担当している。余談だが、旭プロダクションから本作に参加した脇顯太朗氏は『ソードアート・オンライン アリシゼーション』などの撮影監督で、Twitterでアニメ撮影の魅力をわかりやすく発信しているので、撮影を学びたい人はフォローするといいだろう。

　余談ついでにもう一つ挙げると、今期のテレビアニメで『アクダマドライブ』という作品があるが、この撮影を担当しているのも旭プロダクションで、撮影監督は同社の山田和弘氏だ。この作品はアニメの撮影の魅力がわかりやすく出ている作品と言えるだろう。

　泉津井陽一氏は、「実写であればカメラマンごとに個性があるのが当たり前ですから、アニメもようやくその水準に来れたのかな」と対談の中で語っている。※10

　例えば、ウォン・カーウァイ監督の作品にクリストファー・ドイルの映像センスが欠かせないように、近年のアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督作品にエマニュエル・ルベツキが欠かせないように、『鬼滅の刃』には寺尾優一が必要だっただろうし、『君の名は。』は新海誠監督本人の撮影センスが必須だった。今後、アニメーションにおける撮影はますます重要性が高まってくるだろう。この2大ヒットアニメ映画は、それを象徴しているのではないだろうか。アニメーションを撮影の視点から見るのが面白い時代になってきていると筆者は感じている。

※煉獄杏寿郎の「煉」は「火」に「東」が正式表記。

引用資料

※1『ジブリの教科書9　耳をすませば』文春ジブリ文庫、P122
※2『ジブリの教科書9　耳をすませば』文春ジブリ文庫、P124
※3『ジブリの教科書9　耳をすませば』文春ジブリ文庫、P127
※4もっとアニメを知るための撮影講座［泉津井陽一］ 第1回　アニメの「撮
影」って？
※5『アニメ制作者たちの方法』高瀬康司 編、フィルムアート社、P123
※6作品に対するこだわり - 新海誠インタビュー｜あにこれβ
※7『星を追う子ども』公式サイト
※8『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』公式パンフレット、P12
※9project G.E.公式ブログ
※10『アニメ制作者たちの方法』高瀬康司 編、フィルムアート社、P146）。

参考資料

『ぼくらがアニメを見る理由」藤津良太、フィルムアート社
『撮影虎之穴 GX』山田豊徳氏の同人誌
泉津井陽一＋津田涼介 対談 アニメーション“撮影”2019（前編） ――二大話題作の撮影監督が解説する、その基礎と魅力
世界を虜にしたアニメ『鬼滅の刃』はどう作られたのか ufotableにしかできない作画とCGの融合 前編
映画『天気の子』特集記念！　メインスタッフインタビュー～撮影篇～ | インタビュー | CGWORLD.jp
～飛躍するクリエイター～第18回　田中 唯　アニメーション撮影監督
想定されたイメージを超える撮影表現 | MAXONJapan

■杉本穂高
神奈川県厚木市のミニシアター「アミューあつぎ映画.comシネマ」の元支配人。ブログ：「Film Goes With Net」書いてます。他ハフィントン・ポストなどでも映画評を執筆中。

■公開情報
『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』
全国公開中
声の出演：花江夏樹、鬼頭明里、下野紘、松岡禎丞、日野聡、平川大輔
原作：吾峠呼世晴（集英社『週刊少年ジャンプ』連載）
監督：外崎春雄
キャラクターデザイン・総作画監督：松島晃
脚本制作：ufotable
サブキャラクターデザイン：佐藤美幸、梶山庸子、菊池美花
プロップデザイン：小山将治
コンセプトアート：衛藤功二、矢中勝、樺澤侑里
撮影監督：寺尾優一
3D監督：西脇一樹
色彩設計：大前祐子
編集：神野学
音楽：梶浦由記、椎名豪
主題歌：LiSA「炎」（SACRA MUSIC）
アニメーション制作：ufotable
配給：東宝・アニプレックス
(c)吾峠呼世晴／集英社・アニプレックス・ufotable
公式サイト：https://kimetsu.com
公式Twitter：＠kimetsu_off

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