『Mank/マンク』は懐古主義の作品ではない デヴィッド・フィンチャーが“いま”製作した意義

『Mank/マンク』を2020年に観る意義

 とはいえ、結果的に「負け犬が一矢報いる」痛快さを湛えた本作のラストシーンは、父ジャックの優しさを息子デヴィッドが素直に受け止めるかのようで、感動的である。そして、もしかしたら「己の才能の限界を見た者」同士の友情で結ばれていたのかもしれない、マンクとマリオン(アマンダ・セイフライド)との交流を描くシーンも、デヴィッド・フィンチャー作品らしからぬロマンティックな優しさを湛えていて魅力的だ。


 ちなみに、劇中で泥酔したマンクがハーストをドン・キホーテに喩えるセリフがあるが、ミゲル・デ・セルバンテスの『ドン・キホーテ』は1950~60年代にかけてオーソン・ウェルズが映画化に挑み、クランクインまでしながら未完に終わった因縁の企画としても知られている(その後、テリー・ギリアムも映画化に挑戦し、やっぱり酷い目に遭ったのは周知のとおり)。マンク自身も、ハーストという巨大な風車に単身立ち向かったドン・キホーテの心境だったのかもしれない。

 日本では今年公開の『ジュディ 虹の彼方に』(2019年)ではルイス・B・メイヤーのクズ野郎ぶりが暴かれ、『赤い闇 スターリンの冷たい大地で』(2019年)には新聞王ハーストが思いがけないタイミングで登場するなど、映画ファンが『Mank/マンク』を楽しむためのお膳立ては着々と整っていたとも言える。今回も相変わらず情報量満載な作りなので、歴史と照らし合わせながら、隅々まで味わい尽くしていただきたい。

■岡本敦史
ライター。雑誌『映画秘宝』編集スタッフとして、本誌のほか多数のムックに参加。主な参加作品に『別冊映画秘宝 サスペリアMAGAZINE』『映画秘宝EX 激闘! アジアン・アクション映画大進撃』『塚本晋也「野火」全記録』(以上、洋泉社)など。劇場用パンフレット、DVD・Blu-rayのブックレット等にも執筆。Twitter

■配信・公開情報
Netflix映画『Mank/マンク』
一部劇場にて公開中
Netflixにて独占配信中
監督:デヴィッド・フィンチャー
出演:ゲイリー・オールドマン、アマンダ・セイフライド、リリー・コリンズ、チャールズ・ダンス、タペンス・ミドルトン、トム・ペルフリー、トム・バーク
公式サイト:mank-movie.com

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