『ひぐらしのなく頃に 業』の革新的構造 新規視聴者と古参ファンの構図が作品世界に反映?

『ひぐらしのなく頃に 業』の革新的構造

 実際に第1話を鑑賞すると、新スタッフにより絵柄こそは変わったものの、物語そのものは大きな変化がないように思われた。それでも1話のラストにおいて、かつてのテレビシリーズでも象徴的な楽曲となっていた「ひぐらしのなく頃に」がそのまま使われて、あの人気シリーズが帰ってきたと感慨深く思ったものだ。

 しかし、第2話から早くも大きな転換点を迎える。冒頭からかつてのネタバレとなる要素を明かし、今作が新たなループに入った完全新作であることを暗に告げてきたのだ。告知もなく急に始まったその物語に、多くのファンは度肝を抜かれた。そして作品タイトルも『ひぐらしのなく頃に 業』と発表されるという異例の事態となっている。

 その後の物語はかつての視聴者が知るものと、若干異なる部分はありつつも、基本的には同じ道筋を辿っている。ただし、その事件の真相を知り、各キャラクターの過去やトラウマなどを知る視聴者からすると、なんでもないようなシーンでもヒヤヒヤとさせられる。例えば第2話では鬼ごっこを楽しむ可愛らしい日常シーンがあるのだが、参加していていない生徒に「〇〇ちゃんの親が学校に来たよ」と伝言を頼み、情報戦による撹乱を目論むシーンがある。その何気ないセリフですらも、事件のトリガーになりうることを知っている視聴者からすれば、ドキリとさせられる。

 一方で、初見の方には全く楽しめない作品かと問われると、第3話までを鑑賞したところでは、問題ないと答えたい。確かに『ひぐらしのなく頃に』の重要な情報をネタバレされてしまうこともある上に、ある登場人物に注目を集める演出をしているせいで、勘のいい視聴者には本作の黒幕が誰だかわかってしまうかもしれない。ただ、かつての物語を知らなければキーとなるセリフや展開なども、あまり気にならずに視聴し続けられるのではないだろうか。

 今作の主人公は雛見沢村に超してきたばかりの前原圭一で間違いないだろう。圭一と新規のファンは同じ目線であり、この先何が起こるのか、過去や裏でどのようなことが起きていたのかを全く知らないまま、事件に巻き込まれていく。そして本当の意味での主人公はもう1人おり、それがループを体験してきた人物だ。黒幕や真相を知りつつも、どのような事件が起こるのか、それがどのように解決していくべきなのか、観測し続けなければいけない。そして、その人物と全く同じ状況にいるのが、かつてシリーズを愛し、現在も視聴しているファンだろう。その人物とかつてのファンは同じ視点に立っているのだ。かつてのファンも新規の視聴者も違う視点ながらも、登場人物と同じような視点に立つ構成が見事だ。非常にトリッキーな構成ながらも、かつてのファンも新規の視聴者も楽しませることに成功したと言えるだろう。

 完全新作ということもあり、この先どのような事件が発生するのかは全くわからない。かつて起こってしまった事件の再来なのか、それとも未知の事件なのか……もしくは全く事件が起きないことだってあり得るだろう。ミステリーとしては邪道かもしれないが、かつてのファンとしては事件が起こらない方が幸せとも言える。全てを知る登場人物は何を目撃し、どのように対処するのか。新しいミステリーアニメの楽しみ方が登場したかのような感覚すらある。『ひぐらしのなく頃に』の巻き起こした新たなループと挑戦、壮大な実験に目が離せない。

■井中カエル
ブロガー・ライター。映画・アニメを中心に論じるブログ「物語る亀」を運営中。平成アニメの歴史を扱った書籍『現実で勇者になれないぼくらは異世界の夢を見る』(KADOKAWA刊)が発売中。@monogatarukame

■放送情報
『ひぐらしのなく頃に 業』
TOKYO MX、BS11にて、毎週木曜23:30〜放送
サンテレビにて、毎週木曜24:30~放送
AT-Xにて、毎週金曜24:00~放送
声の出演:保志総一朗、中原麻衣、ゆきのさつき、かないみか、田村ゆかり、茶風林、大川透、伊藤美紀、関俊彦
原作:竜騎士07/07th Expansion
監督:川口敬一郎
シリーズ構成:ハヤシナオキ
キャラクターデザイン:渡辺明夫
助監督:池端隆史
美術監督:井上一宏(草薙)
美術統括:山根左帆(草薙)
色彩設計:小松亜理沙
撮影監督:戸澤雄一朗(グラフィニカ)
編集:丹彩子(グラフィニカ)
音響監督:森下広人
音響効果:八十正太(スワラプロ)
音楽:川井憲次
音楽制作:フロンティアワークス
プロデュース:インフィニット
アニメーション制作:パッショーネ
製作:ひぐらしのなく頃に製作委員会
(c)2020竜騎士07/ひぐらしのなく頃に製作委員会

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