『キミスイ』は“浜辺美波史”に欠かせない作品に 努力が結んだ主人公・桜良との“共鳴”

“浜辺美波史”に欠かせない『キミスイ』

 当時、桜良と同じく現役高校生だった浜辺の等身大の演技かと思いきや、「桜良みたいに明るくて男女問わず好かれているような存在にはあこがれますし、私は静かなタイプで真逆です」とのこと(引用:『君の膵臓をたべたい』浜辺美波&北村匠海&北川景子&小栗旬 単独インタビュー|シネマトゥデイ)。今ではコメディエンヌとしての才能も評価されるが、このときはコミカルでテンポの良い会話がまったく上手くいかずに何度もテイクを重ねたという。桜良の人物像は、役柄に思いをめぐらせ、リハーサルにリハーサルを重ね、緻密に演技を組み立てていった浜辺の努力の結晶だといえる。

 病院で偶然「共病文庫」を手にした「僕」に対して、桜良が「私は膵臓の検査。診てもらわないと死んじゃうから」と言いつつ、いつもと変わらぬ大きな笑顔を見せるシーンがある。映画の後半でこの笑顔は平静を装ったふりだったことが明らかになるが、同時に同級生の秘密を知っても動じない「僕」のことを知った驚きと喜びもないまぜになった笑顔になっている。何重にも意味が含まれた笑顔を、さわやかに演じているシーンだった。浜辺自身は自らの演技をこう振り返っている。

「楽しい時には病気のことさえ忘れて心の底から楽しいと思っているような笑顔を心がけました。それでいて天真爛漫なだけじゃない、死と向き合っている女の子でもあったので、ふとした時にそばにある孤独や恐怖を常に忘れないようそちらも気にかけていました」(引用:シネマトゥデイ同

 青い光が印象的な病室でのシーンでは、天真爛漫さと死への恐怖などがないまぜになりつつ、桜良の健気さ、気丈さ、なにより病室を訪れてくれた「僕」への信頼が笑顔という形で表現されていた。病室での夜、運命めいたことを言って「そうじゃなくて!」と「僕」から強く言われたときの得も言われぬ無言の表情から、「心配している」とストレートに告げられたときの控えめな笑顔なども見事なものだった。浜辺自身は、明るく振る舞っているシーンに比べて、病室でのシーンでは演じながら桜良の弱さに自分との近さを感じて、とても演じやすかったと振り返っている。彼女はそのときのことを役柄に「共鳴した」と表現していた(参照:【インタビュー】浜辺美波×北村匠海 心震わせ結んだ絆「自分の演技で泣くなんて…」 | cinemacafe.net)。

 ナチュラルなようでいて、実は努力と苦労を重ね、その上で「共鳴」を感じながら演じた桜良という役柄に、浜辺自身もひときわ愛着を持っている様子。今なお成長途上にある彼女の努力の結晶が美しくパッケージされた映画『君の膵臓をたべたい』は、今後「浜辺美波史」を振り返るときに欠かせない作品になるに違いない。

■大山くまお
ライター・編集。名言、映画、ドラマ、アニメ、音楽などについて取材・執筆を行う。近著に『バンド臨終図巻 ビートルズからSMAPまで』(共著)。文春オンラインにて名言記事を連載中。Twitter

■放送情報
『君の膵臓をたべたい』
日本テレビ系にて、9月4日(金)21:00〜23:14 ※放送枠20分拡大
出演:浜辺美波、北村匠海、大友花恋、矢本悠馬、桜田通、森下大地、北川景子、小栗旬
原作:住野よる『君の膵臓をたべたい』(双葉社刊)
監督:月川翔
脚本:吉田智子
(c)2017「君の膵臓をたべたい」製作委員会 (c)住野よる/双葉社

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