The Wisely Brothers 真舘晴子の「考えごと映画館」第1回
The Wisely Brothers 真舘晴子の『タゴール・ソングス』評 心が通う歌の素晴らしさ
The Wisely BrothersのGt./Vo真舘晴子が最近観たお気に入りの映画を紹介する連載「映画のカーテン」が、「考えごと映画館」としてリニューアル。最近観たオススメ映画を、イラストや写真とともに紹介する。リニューアル後の第1回は、非西欧圏で初めてノーベル文学賞を受賞した詩人、ラビンドラナート・タゴールの魅力に迫ったドキュメンタリー『タゴール・ソングス』をピックアップ。(編集部)
この春は、家にいる時間が増えたから、意識的にも無意識的にも、部屋を快適に過ごせるよういつもより掃除をしたり。ずっと手をつけようとしてたことをしてみたり、新しい感覚で家にいる時間が増えた。これまであまりしてこなかった曲のカバーというものも、最近したくなって、The Velvet Undergroundのカバーをいくつか試していた。「Stephanie Says」という曲を歌っていて、サビのところで、歌っていてハッとした。「But she’s not afraid to die(だけど彼女は死を恐れていない)」という歌詞と、そのメロディの動きに、心の強さがぴったりと来て、感情が入るのだ。歌っていて涙が出そうにもなる。あれ、心が通う歌ってなんて素晴らしいんだろうと思ったのである。
今回紹介する映画は『タゴール・ソングス』。近代インドの大詩人タゴールの作った2,000曲以上にものぼる歌は、100年以上の時を超えた今も、ベンガル人に深く愛され生活を彩っている。この秘密を紐解く音楽ドキュメンタリーの監督は、自分とほとんど同い年の26歳の日本人の女性である。詩を作ることや、詩が人に与えるこころについて、そして何かの偶然性からこの作品に惹きつけられた。
「もし君の呼び声に誰も答えなくとも ひとりで進め」
列車は外側にもたくさんの人がしがみついて発車する。田舎で生まれ、都市に出てきて列車の上で出会う若者たち。インドの今どきの女の子と、ベンガルの血を持つ日本人の女の子。心のなかに、共通した歌がある。歌声がある。
「タゴール・ソングス」を歌うベンガル人の多くは、インド・バングラディシュのベンガル地方にいる。タゴールが生きていたのは、100年も前だ。今もこの地域では、小さな子供から若い女の子、そしておばあさんたちも、町中の人がタゴールの歌を歌っている。両国の国歌もタゴールが手がけており、地域のバンドはタゴールの歌をそれぞれアレンジして演奏している。若者のラッパーはタゴールの歌に背中を押され、その地域には根付いていなかったHIPHOPのシーンを作り上げている。「タゴールの言葉を理解することは難しい」と何人かの登場人物は言う。歌を歌う人々はそれぞれの捉え方でタゴールを歌っているのだ。ひとつのものに、様々な捉え方ができるというのは、自由で広い草原のような気持ちに思う。
音楽の先生が音楽の授業で子供たちに言う。「歌を自分のものにすることは、音のひとつひとつを大事にすること」という言葉。タゴールの歌の音程はとても絶妙なカーブを描くメロディもある。簡単には覚えられないものもあるように思う。けれど、歌を大切に歌うことで、彼らはその歌の意味を、きっと、さらに自分の中に落とし込んでいった。