使用楽曲はどう選ばれたのか? 『WAVES/ウェイブス』トレイ・エドワード・シュルツ監督に聞く

『WAVES/ウェイブス』監督が語る

 A24が製作を務めた映画『WAVES/ウェイブス』が7月10日より全国公開される。フランク・オーシャン、ケンドリック・ラマー、レディオヘッドらの31の楽曲が物語を彩る本作は、成績優秀なレスリング部のエリート選手でもある高校生のタイラーとその妹エミリーを取り巻く人間関係を描いた青春映画。

 そんな本作の監督を務めたのは、『クリシャ』『イット・カムズ・アット・ナイト』のトレイ・エドワード・シュルツだ。楽曲の使用に関する裏話や、自身の作品のスタイル、さらには音楽を手がけたトレント・レズナーとのやりとりなどについて聞いた。

「映画で中間層のアフリカ系アメリカ人が描かれることはなかなかない」

ーー主人公が「裕福な黒人家族」という設定が斬新でした。白人であるあなたが、なぜ黒人の家族を描こうと思ったのかでしょうか?

トレイ・エドワード・シュルツ(以下、シュルツ):それは有機的に、自然なかたちで決まりました。主人公のタイラーを演じたケルヴィン(・ハリソン・Jr.)には、前作『イット・カムズ・アット・ナイト』にも出演してもらいました。そのときから、彼とは「また一緒に組みたいね」という話をしていたんです。一方、この『WAVES/ウェイブス』という作品は4年以上温めてきたもので、ケルヴィンにもそのアイデアを話していました。彼からフィードバックをもらうこともありましたね。そんな中で、この作品はどうしても彼に出演してほしいと思ったんです。つまり、このタイラーという役は、僕とケルヴィンの2人で作り上げたと言える。なので、主人公の家族は必然的に黒人になりました。そこから、お互いに高校時代のことを話し合って、それぞれの実体験を脚本にも反映していきました。

ーー監督自身の実体験も反映されているんですね。

シュルツ:2人で話をしている中で、ケルヴィンはニューオリンズ、僕はテキサスと、ともにアメリカ南部の中間層で育ったという共通点があることに気づきました。なので、2人の経験を融合させたことによって、タイラーのような家庭が生まれたといえます。どちらかというと、僕の経験のほうがより反映されているかもしれません。映画において、アフリカ系アメリカ人は一般的に、すごく貧しく描かれているか、すごくリッチに描かれているかのどちらか。中間層を描かれることがなかなかないのですが、実際には存在するわけです。僕の義理の姉妹が黒人なんですが、この映画を観て、「いままでになかった中間層の黒人の家族を描いてくれてすごくうれしい」と言ってくれたので、そういう設定にした意義があったと思いました。

ーー作品を彩る31の楽曲も大きな注目を集めています。使用楽曲にも“同時代性”が感じられますが、選曲はどのように行ったのでしょう?

シュルツ:楽曲については映画全体のバランスを考慮しました。最初に目指していたのは、曲がストーリーを運んでいくような、また楽曲を通してキャラクターの心情を深く理解できるような“サウンドトラック・フィルム”でした。作業としては、まず自分の好きな曲を集めてプレイリストを作りました。そして脚本を書き始めてから、それぞれのシーンに合うようにプレイリストから曲を引っ張っていきました。ただ、選んだ曲を使って新たにプレイリストを作る際、主人公たちのストーリーが伝わるようにしたかったので、そのバランスはもっとも重視しました。タイラーとエミリーの頭の中に入り込むような、彼らが感じていることが観客に伝わるような、そして実際に彼らが聴いているような曲を選びました。

ーー権利的に使えない楽曲もあったと思いますが、ストーリーに沿わないという理由で使わなかった曲もあるということですね。

シュルツ:脚本の段階であったのは50曲ぐらい。ただ、元の脚本自体が長かったので、編集していくうちに曲数も自然と減っていきました。でも幸運なことに、本当に使いたいと思っていた楽曲はほぼすべて使えることができたんです。例外はカニエ・ウェストの2曲だけ。カニエは連絡すること自体が難しいんです(笑)。なのでしばらく返答をもらえませんでした。実は、ワールドプレミアを行ったテルライド映画祭の時点では、まだ「I Am a God」の許可をもらえていなかったのです。そのあとのトロント映画祭が終わってからようやく許可を得ることができて、そのタイミングで編集して入れることになりました。

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