奇跡の一瞬&画面変化の秘話が明らかに 『WAVES/ウェイブス』監督&撮影監督が語る

 7月10日より全国公開される『WAVES/ウェイブス』。本作の監督を務めたトレイ・エドワード・シュルツと撮影監督を務めたドリュー・ダニエルズのコメントが公開された。

 『ムーンライト』『レディ・バード』『ヘレディタリー/継承』などの話題作を発表してきた映画制作会社A24が放つ本作は、『イット・カムズ・アット・ナイト』のシュルツ監督最新作となる、傷ついた若者たちが、再び愛を信じて生きる希望の物語。時代や国境を越えて誰もが体験する青春の挫折、自分を成長させる恋愛、親子問題、家族の絆といった普遍的なテーマを、少ないセリフながら繊細に、現代的な手法で描写する。 

 撮影監督のダニエルズは、シュルツ監督の前作『イット・カムズ・アット・ナイト』に続いて本作で3度目のタッグ。お互いを知り尽くしたシュルツ監督とダニエルズは、本作のビジュアルの構想について脚本初期の段階から入念に打ち合わせ、登場人物たちの心情を映像の変化で表現することに心血を注いだという。

 ダニエルズは初タッグを組んだシュルツ監督のデビュー作『クリシャ』では、『ラ・ラ・ランド』でアカデミー賞撮影賞を受賞したリヌス・サンドグレン、『ムーンライト』のジェームズ・ラクストン、『沈黙 -サイレンス-』のロドリゴ・プリエトに並んで、ヴァラエティ誌による“必見の10人の撮影監督”に選出。A24制作のドラマ『ユーフォリア/EUPHORIA』でも撮影監督を担当している。

 ダニエルズは本作の撮影について、「トレイと計画したビジュアルを達成するために、映画撮影のさまざまな要素をすべて使用しました。アスペクト比の変化や、様々なレンズを使用し、キャラクターの心の高揚を大胆な動きで表現させるときもあれば、カメラの動きを少なくし固定することで心が下向きに動いているさまを表現することもありました。照明についても美しいフロリダの光を映画に取り込むために、なるだけ自然光に拘って撮影を進めました。フロリダの太陽は日差しも強く、時折嵐にも見舞われます。撮影は正にその日の天気次第で、良い方向に働くこともあれば、そうでないときもありました。緻密に計画していても、雨や嵐、俳優、場所による制限など、外的要因すべてが撮影に影響を与えます。ですので、臨機応変に計画を変え、ジャズセッションのような状況に応じた撮影スタイルを進めました」と明かす。

 また、そのお陰で生まれた奇跡のような1シーンもあるそう。「2台のカメラで撮影したタイラーとアレクシスがビーチで親密な時間を過ごすシーンです。実はあのシーンは、一日の終わりに、『時間があれば撮ろう』というスタンスのシーンの一つだったです。時間ができたので、夕方の薄暗い中で景色が黄金色に輝く黄昏時を撮ろうと思って、俳優たちに衣装を着たまま水の中に入るように頼みました。僕らも一緒に水の中に飛び込んで、15分くらいかけて撮影ポイントに移動したんですが、その頃には日が落ちかけていて、光が消えてなくなる寸前だったんです。ですがその直後、日が完全に落ちる直前の少し青みがかった空にピンク色が混じり、稲妻の嵐が離れたところで光っている瞬間が訪れ、その最高に美しい一瞬をカメラに収めることができたんです。嵐と雷が迫る中で、水の中にいるのがギリギリ危険ではない最後の瞬間だったんだけど、全員の力と素敵な偶然によって魔法のようなシーンを撮ることができました」と奇跡的なシーンが撮れたエピソードも披露した。

 一方のシュルツ監督は、「ドリューと僕が目指したのは、タイラーやエミリーのありのままの姿を映し出している、主観的で表現主義的な没入型の映画を作ることだった。アスペクト比や360度カメラは、登場人物の頭の中に入り込んでもらうのが狙いだった」と撮影の意図を明かした。

 オープニングシーンでは、タイラーとアレクシスの間で360度カメラを回転させているが、それについては、「あれはタイラーの感情、2人の関係、10代の恋を表しているんだ。自由で美しく、少しだけ恐怖もある。タイラーとアレクシスは、思い切り愛し合っていて、思い切りケンカもする。若くて、自由で、ワイルドで、美しい2人だから、生の感情や恋心を表現するには、カメラを回すしかないと思ったんだ」とその狙いを明らかにした。

 続けて、「また、360度カメラを若い恋のモチーフとして、エミリーが旅に出るシーンで再び用いた。アスペクト比も登場人物の心情を感じてもらうには効果的だったと思う。映画の冒頭はワイドレンズを用いて1.85:1にし、タイラーの充実した忙しない世界をたくさんの動きを入れて撮った。その後、彼の世界が崩れていくにつれて、心情を表すかのように、アスペクト比も変わる。医者から人生を一変させるニュースを聞いたあとは2.40:1になり、タイラーがクスリをやっている時はアナモフィックレンズを用いて2.66:1にしている。悲劇が起きた直後に1.33:1にしたのは、閉塞感が増すし、顔をアップでとらえるのに美しい比率だからだ。兄から妹にバトンが渡る瞬間には適していた。対象がエミリーに切り替わってからも、彼女はまだ深い悲しみに浸っていて、周囲と距離を置いているから、しばらく1.33:1を保ちフォーカスを浅くしている。エミリーが心を開き、恋をしようと決めた瞬間、彼女の感情に合わせて2.66:1に戻すんだ。そして最後の3分の1で1.85:1に戻し、エミリーの傷は次第に癒され、周りの人々との絆も強まっていく」と撮影を振り返っている。

■公開情報
『WAVES/ウェイブス』
7月10日(金)より、TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー
監督・脚本:トレイ・エドワード・シュルツ
出演:ケルヴィン・ハリソン・Jr.、テイラー・ラッセル、スターリング・K・ブラウン、レネー・エリス・ゴールズベリー、ルーカス・ヘッジズ、アレクサ・デミー
作曲:トレント・レズナー&アッティカス・ロス
配給:ファントム・フィルム
原題:Waves /2019年/アメリカ/英語/ビスタサイズ/135分/PG12
(c)2019 A24 Distribution, LLC. All rights reserved.
公式サイト:https://www.phantom-film.com/waves-movie/

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