The Wisely Brothers 真舘晴子の『WAVES/ウェイブス』評 “大切にする”とはどういうことか

真舘晴子の『WAVES/ウェイブス』評

 悲劇のあと、タイラーの家族は崩壊していく。でも主人公の妹エミリーの目線が、この映画の、大切な部分をつくっていく。

 複雑な事情での自分のあり方は、年齢が幼くても、そうじゃなくても、分からないものだし、誰を信じられるか、というのは、実際奥底でしか理解できないこともある。だけど、彼女は、自分が信頼できる目や姿勢やことばを、自分の知らない場所に見つけていった。エイミーが出会うルークという男性。彼のことは、映画を観ながら自分でもいろんな可能性を考えてしまい、不安をもっていた。彼は実はこうなんじゃないか、もし今そうなってしまったら、つらいと。でも、エイミーはこれから大切にできるかもしれないもの、それらを失う覚悟をもって、自分を送り出すことができたから、彼女は父親の抱える大きな苦しみを受け入れることができたのだと感じた。

 それでもやはり、物語前半のことを思い出してしまう私がいる。いつか、友人が私に言ったことばを思い出す。「相手のことを大切にして、自分のことも大切にして、それだけでは、成り立たなくて、二人の関係を大切にできたから今こうしている」と。それぞれの求めていることと、 私たちの関係が本当に求めていることには違いがある。それは一体どんな違いか、人や地域の文化や、テンションや、心のあり方、そもそも人は人と異なっているという事実からくるものだと感じる。何を幸せに思うのか? 最近知ったのは、人には歴史を経て共通しているものがあるということだけれど。違いがあることを理解することと、私たちに同じ部分をみつけること、どちらが気づきやすいのだろう? 一体どちらなのかわからない。けれど、どちらも“知ろうとすること”だと気づく。

『WAVES/ウェイブス』をイメージしたコラージュ(by真舘晴子)

 人間はできることが多く見えるけれど、多くなるほどに、本当に必要なことをそのときに判断できるのかは、わからなくなってしまう。何度も思い出すのは、空に佇むようなエイミーの表情。

 この映画は、思っていたよりも暗いと思われるかもしれない。でも、それでしか見えない私の知らない気持ちがあったように思う。表現とは、これまで自分が知らなかった場所に、自分の大切なかけらを見出すことでもあるのだ。

 私たちは私たちのために何ができるのか?

■真舘晴子
The Wisely BrothersのGt/Voを担当。
都内高校の軽音楽部にて結成。オルタナティブかつナチュラルなサウンドを基調とし会話をするようにライブをするスリーピースバンド。
2014年下北沢を中心に活動開始。 2018年2月キャリア初となる1st full album『YAK』発売。
2019年7月17日に2nd Full Album『Captain Sad』をリリース。
公式サイト:http://wiselybrothers.com/
公式Instagram:https://www.instagram.com/wiselybrothers/

■公開情報
『WAVES/ウェイブス』
TOHOシネマズ 日比谷ほかにて公開中
監督・脚本:トレイ・エドワード・シュルツ
出演:ケルヴィン・ハリソン・Jr.、テイラー・ラッセル、スターリング・K・ブラウン、レネー・エリス・ゴールズベリー、ルーカス・ヘッジズ、アレクサ・デミー
作曲:トレント・レズナー&アッティカス・ロス
配給:ファントム・フィルム
原題:Waves /2019年/アメリカ/英語/ビスタサイズ/135分/PG12
(c)2019 A24 Distribution, LLC. All rights reserved.
公式サイト:https://www.phantom-film.com/waves-movie/

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