『もののけ姫』のアシタカはなぜ永遠の憧れなのか? 男女問わず人の心を打つ“言葉”の力

 6月26日より全国372館の映画館でジブリ4作品が上映されている。その中でも、性別問わず絶大な人気を誇るキャラが、『もののけ姫』のアシタカだ。

 なぜ、アシタカはみんなの憧れなのか。1997年当時、映画館で初めて観たときは、圧倒的な映像美と世界観、強いメッセージ性に面食らった。しかし、その後何度かテレビでも触れてきた同作を、今回改めて映画館で観直してみると、アシタカの魅力が際立ってくる。

 まず宮崎駿が自身を投影してバリバリの趣味全開に描いたのが『紅の豚』や『風立ちぬ』とよく言われる一方で、大多数のジブリ作品で圧倒的な魅力を放つのは「気高い少女たち」である。

 そういった意味で、ジブリ作品で人気の男子キャラを見渡すと、『ハウルの動く城』の主人公・ハウルは別として、『千と千尋の神隠し』のハク、『天空の城ラピュタ』のパズー、『耳をすませば』の天沢聖司など、ヒロインを見守る、あるいは影響を与える側のキャラが主流だ。その点、アシタカは事情が違う。

 アシタカは『風の谷のナウシカ』のナウシカであり、『ラピュタ』ならパズーよりもむしろシータだ。宮崎駿が憧れを抱く少女像そのもののようでもある。

 その美しさは、まず強さにある。エミシ一族の長になるべく教育を受けてきた誇りを持ち、死を覚悟して、タタリ神から村を守ろうとするアシタカ。恐ろしさを理解しつつも、逃げずに真っすぐ向き合い、自身の呪いも受け入れることのできる気丈さは、まさに選ばれし人にふさわしい。

 また、ケガ人を見捨てることができず、背負って山を越えるが、息を切らし、途中で休息もとる。鍛え抜かれた心と身体があるだけであって、アシタカは決して超人ではなく、「普通の人間」だということも大きなポイントだろう。

 しかし、その心の強さは、銃で撃たれて深手を負った状態で、サン(もののけ姫)を抱えてなお、10人がかりでようやく開く門を動かしてしまう力を持つ。「普通の人間」が呪いによって、コントロール困難で自らの命を蝕む強大な力を手に入れる悲劇性もまた、美しさを際立たせている。

 当然ながら、姿も美しい。タタラ場の女たちが口々に「いい男」と言い、その姿を見に来ては盛り上がるさまは、さながら「突然やってきた美少年の転校生」のようだ。

 しかも、下品なからかいやアプローチに気を悪くすることなく、受け流すわけでもなく、「女たちが元気な村は良い村だと聞きます」と穏やかな顔で言う上品さ。ほとんど仏の境地である。おまけに、女性たちが働くタタラ場に自ら入り、その仕事を手伝ってみせる優しさ・女性に対して示す敬意だけでも十分素敵なのに、そこで垣間見える男性ならではの力強さもまた、魅力だ。このシーンだけで女性が求める優しさと強さ・公平さ・謙虚さが全部詰まっているように見える。

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