実話サスペンス『バルーン 奇蹟の脱出飛行』 題材のモデルが明かす、決死の脱出劇の真相

『バルーン 奇蹟の脱出飛行』実話との違い

 ドイツ映画『バルーン 奇蹟の脱出飛行』が現在公開中だ。本作は、ドイツが東西に分断されていた1979年に実際に起きた、特殊技術も持たないごく平凡な一般市民が、手作りの気球で東ドイツから西ドイツへの亡命に成功させたという実話をもとにしたサスペンス。

 1982年に、ウォルト・ディズニー・プロダクションによって『気球の8人』として映画化もされたこの題材。リメイクに情熱を燃やしたのがミヒャエル・ブリー・ヘルビヒ監督だ。当事者たちへの取材や膨大な資料をもとに、入念な時代考証と物語づくりに取り組んだ。

 今回リアルサウンド映画部では、元となった実話で気球制作に取り組んだ人物、ギュンター・ヴィッツェルにオンラインでインタビュー。本作のコンサルタントとして製作に協力したヴィッツェルが、当時の思いを振り返る。

なぜ亡命手段に気球を選んだ?

ギュンター・ヴィッツェル

ーーミヒャエル・ブリー・ヘルビヒ監督から話をもらってから引き受けるまでの経緯を教えてください。

ギュンター・ヴィッツェル(以下ヴィッツェル):まず2012年に、監督から私たちの物語を映画にしたいと連絡をいただきました。しかし、『気球の8人』の際にこの物語の映画化の権利をウォルト・ディズニー・プロダクションに渡していたのです。つまり、彼が交渉すべき相手は私たちではなかった。でも監督は、そういう状況でも「この作品にはあなたたちのサポートが不可欠だ」とおっしゃられました。そして2012年にそれぞれの家族に取材を行い、そのあと監督が数年かけてディズニーから承諾を得て、2015年にようやくスタートしました。

ーー話をもらったときの率直な気持ちはいかがでしたか?

ヴィッツェル:ヘルビヒ監督は、主にコメディ映画をたくさん撮っている方で、私ももちろん名前は知っていました。私自身はコメディ映画そのものがすごく好きというわけではないのですが、観客を魅了する監督だとは思っていたので、彼だったら私たちの物語もきっといい映画にしてくれるだろうなと思いました。

ーー今作では、ヴィッツェルさんをはじめ実際に気球で脱出されたみなさんがコンサルタントとして参加していますね。映画は実話に対して忠実に製作されたのでしょうか?

ヴィッツェル:そうです。全て事実です。とにかく監督は、正確な情報を得て、それを映画として再現したいということでした。実際の情報を集めたいというところで、私たちもシュタージ資料館からの資料を元に情報を彼に渡しましたし、他にも旧東ドイツを知る人をたくさん取材していました。しかし、この映画はあくまで劇映画でエンターテインメントの視点で作られており、多少脚色をしているのも確かです。例えば、幼稚園の先生がシュタージ(秘密警察)に私たちのことを密告をするかしないかというシーン。ああいったことは実際にはなく、旧東ドイツの全員が密告者だったわけじゃないといったことを伝えたかったんだと思います。

ーー素朴な疑問なのですが、亡命手段は他にも様々な手段がある中、なぜ気球を選んだのでしょうか?

ヴィッツェル:旧東ドイツから脱出したいという思いはずっと持っていました。おっしゃるように逃亡の手段はいろいろありますが、どれも危険極まりないので思い留まっていたんです。そんな中、1978年の3月に西ドイツの記事を偶然目にする機会がありました。それはニューメキシコで毎年行われている熱気球のイベントに関する記事で、たくさんの気球が軽やかに浮かんでいる写真が載っていました。それを見たときに、「気球だったら材料は少ないし、比較的簡単に安全に西へ逃亡できるんじゃないか」と思い立ったのが最初です。そしてこのアイデアを相方のペーターに話し、彼も「これだったらいけそうだね」ということで、それぞれの妻を説得して、1978年3月8日にこの計画が動き出しました。

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