日本人も決して他人事ではない 『SKIN/スキン』が浮き彫りにする排斥主義問題
公開中の映画『SKIN/スキン』は、白人至上主義者として生きてきたレイシストが過去と決別し、生まれ変わろうとした衝撃の実話を基にした物語である。
主人公のブライオン・“バブス”・ワイドナー(ジェイミー・ベル)が所属する白人至上主義団体は、黒人、イスラム教徒、同性愛者に対して「アメリカから出て行け!」と主張する排斥主義のグループだ。
構成員男性は、タイトルにあるように皆スキンヘッドにしており、顔までの全身タトゥーで暴力的な差別行為を繰り返す。クラブ主宰者であるクレーガー(ビル・キャンプ)は、アメリカ下院議員選挙にまで出馬し、排斥主義を徹底させようという異常者である。
主人公のブライオンは、路上生活をしていたところをクレーガー夫妻に拾われる。衣食住と仕事まで与えられたために多大な恩義を感じてしまい、リーダー的存在となるほどにクラブに忠誠を誓い、筋金入りの差別主義者になっていく。
しかし、クラブの集会で、たまたま仕事のために来ていたジュリー(ダニエル・マクドナルド)という3人の娘を育てるシングルマザーと出会ったことをきっかけに、ブライオンは本当の愛に気づき始める。
差別主義者としての自分の人生に疑問を抱き、クラブの行っている行為や主張の異常さを理解し始めたブライオンは、ある日家族で眠っていた夜中3時にクレーガーに叩き起こされ、イスラム教の礼拝堂であるモスク襲撃を命じられる。この命令をきっかけに、ブライオンはクラブに嫌気がさし、差別主義者からの脱却を決断する。
イスラエル出身のユダヤ人監督ガイ・ナティーブが、製作前に本企画の説明をしても、周囲の人々は「アメリカに白人至上主義の団体ない。それは過去の話だ」との反応だったようだが、トランプ大統領の誕生により状況が一変したという。トランプ大統領の人種政策や移民政策に異論を唱えるアメリカ人は非常に多いことが、逆にこの映画の製作や公開の後押しにもなっていたのであろう。
2020年5月25日に、黒人男性ジョージ・フロイド氏が偽の20ドル紙幣使用疑惑により、駆けつけた警察官によって後ろ手に手錠をかけられ、地面にうつ伏せにされた身動きできない状態のまま、8分46秒もの間、膝で首を圧迫され窒息死した事件がミネソタ州ミネアポリスで起きた。その事件を発端としたBlack Lives Matter運動はアメリカ全土へ広がり、一部では暴徒化する事態にまでなってしまった。
この問題の根底には、制度的人種差別問題(Systemic Racism)といったアメリカ特有の潜在的差別意識問題がある。アメリカでは社会的弱者が不利となる仕組みが社会構造に取り込まれており、黒人が黒人として生まれただけで、以後の人生が自動的に不利の連続となる構造があるのだ。
こうした歴史的背景のある根深い差別思想が、アメリカの社会では蔓延している。実際にアメリカへ訪れた際に差別的な扱いを受けた人もたくさんいるだろう。
しかし、こうした差別は、アメリカなどの海外だけの問題ではない。東京都知事選選挙中にも「朝鮮人を殺せ」と叫びながら、日本のコリアンタウンを集団で練り歩く人間が立候補していた事実は、この映画で排斥主義グループ主宰のクレーガーが下院議員選挙に出馬する構図と何も変わらない。
人種差別のヘイトデモが日本で実際に起きていても、アメリカのBlack Lives Matter運動における暴動や騒乱を対岸の火事として捉えてしまうのだろうか。こうした根深い差別問題や排斥主義問題を、この映画は浮き彫りにしてくれる。
ブライオンはジュリーと3人の娘との逃亡生活を始めるが、顔面にまで及ぶタトゥーと、差別主義者としての数々の事件によってFBIのリストに載っており、満足な仕事すらできる状態ではない。
そんなある日、クラブから居場所を突き止められたブライオンとジュリー家族だったが、ブライオンはきっぱりと決別の意思を表明する。しかし、クラブからは壮絶な報復と執拗な追い込みをかけられていく。