『やまとなでしこ』の松嶋菜々子はなぜ魅力的だったのか 恋愛ドラマ壊滅時代に再放送される意義
あの桜子が帰ってくる……! 2000年にフジテレビの月9枠でOAされ、社会現象ともなった『やまとなでしこ』。平均視聴率26.4%、最高視聴率は34.2%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)という今では考えられない数字をたたき出したお化けドラマである。
主役の神野桜子を演じたのは松嶋菜々子。モデル出身の恵まれたプロポーションでハイブランドの服を着こなし、放送当時は桜子スタイルの特集がファッション誌でも多く組まれた。
なぜ『やまとなでしこ』はここまで視聴者に受け入れられたのか。そして2020年の今、私たちの目に桜子はどう映るのだろうか。
神野桜子27歳、職業・客室乗務員。ボロアパートに住みながら収入のすべてを外見磨きのアイテム=洋服、靴、バッグ、ヘアメイクにつぎ込んでいる。仕事の後は後輩を引き連れての合コン三昧。狙った男性を落とすときの決めぜりふは「今夜は、たったひとりの人に巡り会えた気がする」。最高にリッチな男性と結婚することが彼女の人生のゴールであり、幸せの最終形なのだ。
そんな桜子の前に現れたのが中原欧介(堤真一)。数学者の夢をあきらめ、実家の鮮魚店を継いでいるごく普通の青年である。ある日、人数合わせで参加した友人宅の合コンで欧介は桜子からロックオンされる。その夜、お得意さんが店に忘れていった中央競馬会馬主のピンをたまたま胸に着けていたからだ。
ラブコメディのお約束“勘違い”から始まった恋。だが、ある時桜子は欧介がつぶれそうな鮮魚店を切り盛りする青年だと知り「ご縁がなかったようですね」と一方的に別れを告げる。さあ、どうなるふたりの恋の行方……!
男性をジャッジする際の基準が性格でもルックスでもなく年収とステータス。相手を値踏みする時は服や靴でなくまず車のキーをチェックし、女性が1番高値で売れるのは27歳と後輩たちに言い放つ。これだけ聞くとただの嫌な女であるが、放送当時、多くの女性たちが桜子に喝采を送った。なぜか。
それは桜子が自分で決めた目的を達成するため誰かを蹴落とそうとしたり、変にブレたりしなかったからだ。彼女は凛とした強さで思う道を突き進み、欲しいものを手に入れる。その嫌みのないサバサバした潔さが女性視聴者に受け入れられたのである。
また、松嶋菜々子の強く出てもどこか可笑しみや可愛らしさがにじみ出るパーソナリティも桜子人気に一役買った理由だろう。彼女のあの声で言われると、ゲスなせりふも妙に納得してしまう。
じつは桜子には“秘密”がある。それは彼女が貧しい漁村で育ち、欲しい服やおもちゃを満足に買ってもらうこともできず、ひもじい幼少期を送っていたこと。もうあの頃には戻りたくない、お金に苦労しない人生を送れば幸福になれる……その思いが強すぎて、客室乗務員という仕事に就いた今、美貌を武器に「たったひとりの運命の人=最高のお金持ち」を探しているのだ。
言ってみればある種の“シンデレラ願望”だが、おとぎ話のシンデレラと違うのは、桜子がお城からの従者を待たずに、みずからガラスの靴をゲットしに行くところ。『やまとなでしこ』は男性から選ばれ幸せを得る女性ではなく、自分からアグレッシブに男性を選びに行く女性を描いたドラマの先駆けなのである。