コロナ禍の今、『タイガーテール』などアジア系米国人クリエイター作品を観る理由
往往にして、移民はディアスポラ(diaspora)と呼ばれる。“撒き散らされたもの”を意味するギリシャ語を語源として、祖国を離れ新天地に居住する人々を表す。世界中から撒き散らされた種が地に植わり繁殖し、移民大国アメリカが出来上がった。そして皮肉なことに、時間をかけて移住先に順応していったディアスポラと異なり、新型コロナウイルスは発生から驚くべきスピードと拡散力で世界を制覇した。無知な人々の単純な思い込みがヘイトを生む。様々な理由により祖国を後にし、次世代のために犠牲を払ってきた移民1世が作り上げたものが傷つけられている。そんな今、1人の中国系アメリカ人のツイートを思い出す。2018年8月、『クレイジー・リッチ!』がボックスオフィスを制覇した際に発信されたツイートは瞬く間に拡散し、36万8000件以上の「いいね!」を獲得した。
You’re 8 years old.
Your 3rd grade class orders chinese food & your father delivers it. You are so excited to see your pops in school. He’s your hero. But apparently other kids don’t think he’s so cool. They laugh at him and mimic his accent. You don’t want to be Chinese anymore. pic.twitter.com/6vW9DXZK6x— Kimmy (@kimmythepooh) August 18, 2018
「あなたは8歳。学校で中華料理をオーダーしたら、お父さんが配達に来た。お父さんと学校で会えるなんて、と喜んだ。お父さんはあなたのヒーローだから。だけど、他の子どもたちにはクールなヒーローには見えない。みんながお父さんの中国語訛りの発音を笑い、真似する。もう中国人でいたくない」
「あなたは9歳。バレエの合宿に参加する。誰かが、“あなたの目は変な形だから嫌いだって言ってるよ”と告げ口する。あなたは、その言葉がなぜこんなにも傷つけるのかを説明する語彙を持たない。でも、見るからにアジア風な自分の顔が嫌いになる。もう中国人でいたくない」
「あなたは16歳。ハロウィンに、クラスメートが“アジアの観光客”の仮装をしている。テープで目をつり上げ、首からカメラを提げてピースサインをしている。居心地が悪い。先生が“この仮装は不快にさせる?”と聞くけれど、“ノー”と言う」
「堅苦しい人間と思われたくない。みんなと同じように笑い飛ばす。もう中国人でいたくない」
「あなたは17歳。大学に進学して、他のアジア人と会う。彼らには、あなたが持っていないプライドがあった。彼は聞く。どうして母国語を話さないの? 小籠包じゃなくてグリルド・チーズが好きなのはなぜ? うちはそんな生活はしてなかったの、と答える」
「あなたは随分と前に自分の文化を封印していた。中国語を話すことを拒絶し、お母さんが作ったごはんを“不味い”と言った。間違いを犯していたことに気がつく。自分について嫌っていたことを全部取り戻さなくっちゃ。初めて、中国人になりたいと思う」
「あなたは20歳。この数年間をかけて、自分自身を取り戻している。あなたは肌の色にあった名字を持っている。ずっと一緒に生きていく。もう誰も、過去にあなたが感じたような思いはさせない。中国人でいることが愛しい」
「あなたは25歳。オールアジア人キャストの映画を観て、なぜだか涙が止まらない。こんなキャストをハリウッド映画で観たことはなかった。みんな、すごく美しい。中国人であることを嬉しく思う」
アジア系移民たちによる作品について考えるのに、今ほどうってつけの時はないだろう。
■平井伊都子
ロサンゼルス在住映画ライター。在ロサンゼルス総領事館にて3年間の任期付外交官を経て、映画業界に復帰。
■配信情報
『タイガーテール -ある家族の記憶-』
Netflixにて独占配信中