『クレイジー・リッチ!』が米映画史に起こした革新 “アジア”を巡る2人の女性の物語を読み解く
『ジュマンジ/ウェルカム・トゥ・ジャングル』、『ブラックパンサー』、 『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』、『クレイジー・リッチ!』……この4つは、2018年アメリカのBox Officeで3週間連続首位を獲得した作品だ(2019年9月21日現在)。MCU作品の推定製作費が2億ドル以上とされる一方、この恋愛映画のバジェットは3000万ドル。ロマンティック・コメディとして2010年代トップの興行収入も記録している。オールアジア系キャストの『クレイジー・リッチ!』は、なぜここまでアメリカを熱狂させたのか?
本作には、製作費よりも驚きの数字がある。元々、原作はベストセラー小説だが、その作者が映画化にあたって設定した自分の報酬は、わずか1ドルだった。
なぜ原作者の報酬は1ドルだったのか
『クレイジー・リッチ!』の主人公は、ニューヨーク大学で教鞭をとる中国系アメリカ人レイチェル(コンスタンス・ウー)だ。恋人ニック(ヘンリー・ゴールディング)の帰郷に同伴することになるも、そこで彼がシンガポールを代表する大富豪であることが発覚する。ニックの母エレノア(ミシェル・ヨー)は息子の恋人を気に入らない。レイチェルは突然の危機を乗り越えられるのか……。
このように、本作は王道のラブロマンスである。超富裕層との格差恋愛ということで『花より男子』と比較する声も上がっている。
原作者ケビン・クワンは、映画化にあたる自分の報酬を1ドルに設定した。元々原作小説はベストセラーで、多額のオファーが舞い込んだにも関わらずだ。なぜか。ハリウッドの映画会社がホワイトウォッシュを求めたためである。主人公を白人女優に演じさせようとしたプロデューサーもいたという。ゆえに、クワンは自身が映画のキャスティングに関わることを条件に据え、代わりに報酬を1ドルとしたのである。この決断によってオールアジア系キャスティングがなされ、「アジア系でないと成立しないヒット作」が生まれた。映画『クレイジー・リッチ!』は「男女のラブロマンス」であると同時に「2人の女性の物語」である。作品の核となるこのテーマは、主演をホワイトウォッシュしたら絶対に成り立たない。