『きのう何食べた?』映画化の要因は? 2000年代から変容するTVドラマと映画の関係性
2019年4月期にテレビ東京系列にて放送されたドラマ『きのう何食べた?』の映画化が3月27日に発表された。
累計発行部数700万部(電子版含む)突破のよしながふみによる人気漫画を、西島秀俊と内野聖陽のダブル主演でドラマ化した同作は、2LDKのアパートで同居する、料理上手で几帳面・倹約家の弁護士・筧史朗(通称・シロさん)と、その恋人で人当たりの良い美容師・矢吹賢二(通称・ケンジ)の毎日の食卓を通して浮かび上がる、男2人暮らしの人生の機微を描く物語だ。
映画化もされるほどの魅力はどこにあるのだろうか。ドラマ評論家の成馬零一氏は以下のように語る。
「2018年に『おっさんずラブ』(テレビ朝日系)がヒットした影響もあったと思うのですが、2019年はLGBTQを題材にしたドラマが多く作られました。その中でも『きのう何食べた?』は完成度が非常に高かったのですが、よしながふみさんの原作の良さを丁寧に生かしていたことが大きいですね。主演俳優2人のビジュアルを筆頭に、物語に余計な足し算も引き算もなくて、それでいてちゃんと現代の話になっていた。これは脚本の安達奈緒子さんの功績だと思います。そういった座組みの相性に加え、テレビ東京の深夜枠に上手くハマったというところもあります。同性愛者のカップルの話ではありますが、40代独身男性が社会からどう見られているかを丁寧に描いていたり、作中の料理を取り上げたレシピ本が話題になったり、グルメドラマとしても楽しめたりといった、様々な要素が重なり人気を博したのだと思います」
よしながふみが手がける原作は、『モーニング』(講談社)で2007年にスタートし、現在も連載中の人気漫画だ。そんな原作の魅力を成馬氏は以下のように続ける。
「連載が始まった2007年には、こういった題材を描いた作品として圧倒的に新しかった。よしながさんは、ドラマ化もされた『大奥』も描かれていますが、10年経ってからドラマ化されたものを今観ても、全然古びていない。むしろやっと時代が追いついたという印象があります。ゲイのカップルの周囲とのズレを描きつつ、本人たちは淡々としている。言い方が難しいですが、芸能的に消費されるゲイではなく、私たちの職場や家族にいてもおかしくない隣人として描いていたのが新しかった。元々、よしながさんは、BLコミック出身で『西洋骨董洋菓子店』で大きく注目されました。ですので、初期の作品は、同性愛を題材にしても、どうしてもBL要素が強かったのですが、『きのう何食べた?』は『モーニング』で連載する上で、日常生活に根ざした存在として描いていました。そのバランス感覚が魅力ですね」
今回の映画化に際し、どんな展開が期待されるのか。成馬氏はこう分析する。
「年末年始にスペシャルドラマが放送されましたし、原作のストックもあるので、今後も定期的に作られていく作品だとは思っていました。ですが、シーズン2やスペシャルドラマではなく映画化だったことは、驚きましたね。日常に根ざした作品なので、映画向きの題材ではない気もしますが、作り手が原作の良さを理解している安心感があるので、信頼は置けるのではないでしょうか」
同作が放送されていたテレビ東京の「ドラマ24」といえば、『孤独のグルメ』をはじめ数々のグルメドラマや深夜枠の飯テロの先駆けとなった存在だ。そんな「ドラマ24」は実は映画と非常に相性が良いと成馬氏は指摘する。
「基本的に『ドラマ24』は映画化に向いている枠なのだと思います。『モテキ』を筆頭に映画化されている作品も多く、演出に、外部の映画監督を起用したりと、映画とドラマの中間に位置するような枠ですね。1月クールに放送された『コタキ兄弟と四苦八苦』も山下敦弘監督を起用し、脚本に野木亜紀子を据え大きな話題となりました。同枠の特徴は、小規模な世界で起きる人間ドラマを淡々と描くところにあるのですが、そこに食事が絡むのは必然ではありますよね。“グルメドラマは派手な物語やシーンを積み重ねられない”といった制約を逆手に取ることで、活性化しているジャンルで。『サ道』や『ひとりキャンプで食って寝る』、『ゆるキャン△』といったグルメドラマのフォーマットを使った別の作品も、映像としてレベルが高い。そういう意味では、深夜ドラマ自体が映画っぽいのかもしれません」