“福田組”というだけではない コメディ以外もイケる2大巨頭、ムロツヨシと佐藤二朗の不思議な魅力

ムロツヨシと佐藤二朗の不思議な魅力

 一方の佐藤二朗は、1969年生まれの50歳。信州大学経済学部を卒業し、大手広告代理店に入社するも1日で退職。俳優を目指しながらも挫折が続き、26歳のとき、広告代理店に再就職。仕事にまい進し、営業トップの成績を残すがやはり俳優の思いを捨てることができずに、96年、演劇ユニット「ちからわざ」を立ち上げる。会社勤めと俳優活動を両立するが、劇団「自転車キンクリート」の鈴木裕美に誘われ同劇団に入団したことを機に、会社を辞めた。

 現在の活躍への大きな足がかりになったのは、堤幸彦演出のドラマ『ブラック・ジャック』(2001年/TBS系)への出演。これをきっかけに現事務所に所属する。個性の光る脇役としてキャリアを積んでいった佐藤は、BS-TBSで放送され、宮崎あおい、黒川芽以、堀北真希、夏帆などを輩出した人気テレビシリーズ『ケータイ刑事 銭形』シリーズの『銭形舞』『銭形泪』『銭形零』『銭形雷』に出演、『銭形泪』と『銭形零』では一部脚本も担当した。さらに、ドラマ『電車男』『危険なアネキ』(ともに2005年/フジテレビ系)、『夜王~YAOH~』(2006年/TBS系)、『ごくせん(第3シリーズ)』(2008年/日本テレビ系)と徐々に爪痕を残していく。また、181センチと体の大きな佐藤と豆柴犬の取り合わせの妙がハマった主演作『幼獣マメシバ』(2009年~)がシリーズ化され、ドラマと映画でともに人気を博す。そして福田雄一演出のドラマ『勇者ヨシヒコと魔王の城』(2011年/テレビ東京)の仏役でブレイク(福田作品にはそれ以前より参加)。 螺髪(らほつ)のインパクトに潰されることのない佐藤の稀有な存在感を知らしめた。一度見たら忘れられないその個性は役者にとっては諸刃の剣であり、使い方が難しいが、福田監督の濃い世界観には佐藤の個性がマッチした。

『シロでもクロでもない世界で、パンダは笑う。』(c)読売テレビ

 その後もドラマ『スーパーサラリーマン左江内氏』(2017年/日本テレビ系)、『今日 から俺は!!』(2018年/日本テレビ系)、映画『銀魂』(2017年)、『斉木楠雄のΨ難』(2017年)、『銀魂2』(2018年)などでイキイキと個性を発揮しつつ、福田作品以外でも引っ張りだこ。劇場アニメや吹き替え作品でも才能を発揮し、ディズニーのフルCG映画『ライオン・キング』(2019年)でのプンバァ役は、 絶大な人気を持つオリジナルアニメからの大きなプレッシャーにも関わらず、受け入れられた。コメディ演技を封印したドラマ『シロでもクロでもない世界で、パンダは笑う。』(読売テレビ・日本テレビ系)での怪演も記憶に新しい。

『はるヲうるひと』(c)2020「はるヲうるひと」製作委員会(AMGエンタテインメント/ハピネット)

 また佐藤の人柄が覗けて癖になると人気を集め続ける、フォロワー173万超えを誇る公式Twitterのつぶやきに、本人によるツッコミを加えてまとめた書籍 『佐藤二朗なう』『のれんをくぐると、佐藤二朗』や、MCを務めるバラエティ『超逆境クイズバトル!!99人の壁』(フジテレビ系)なども好評。ジャンルを超えて人気を獲得している佐藤だが、やはり本業は役者。4月4日には堤幸彦演出の単発ドラマ『翔べ!工業高校マーチングバンド部〜泣き虫先生が僕らに教えてくれたこと〜』(中京テレビ)、4月期ドラマ『浦安鉄筋家族』(テレビ東京)と主演作の放送が続く。さらに注目なのが『memo』(2008年)に続く監督・脚本・出演、第2弾の映画『はるヲうるひと』(5月15日公開予定)だ。閉ざされた島を舞台にした人間ドラマで、『ちからわざ』での舞台版では佐藤が演じた、長男に媚びへつらい生きる次男役で山田孝之が主演を務め、佐藤は、暴力的な長男役で闇を爆発させている。役者全員が素晴らしく、それを引き出した佐藤の監督としての手腕も光る。

 福田組と呼ばれ、共演作が多いムロツヨシと佐藤二朗。ともに遅咲きでコミカルな演技を得意とし、アドリブや自由演技が過ぎると言われるクセの強さがありながら、枠からはみ出ているようでいて、その作品、その作品のフィクションの世界に溶け込み、見る者にも、「こんな人、いるかも」と共感させてしまう不思議な魅力を持つ。自由に動いているようでいて、周囲との対話による演技を大切にしながら作品の中に生きているからだろう。そして同じシーンで直接ぶつかるにしろ、それぞれにインパクトを残すにしろ、似て非なる互いの存在がいたことも、結果的に幸福な相乗効果を生んでいるのかもしれない。コメディ以外もイケることは証明済みの2大巨頭。だが、ブレイク後も変に薄まることなく、自由に見える計算されたコミカル演技を失わないことで、これからも支持されていくはずだ。

※宮崎あおいの「崎」は「たつさき」が正式表記

■望月ふみ
70年代生まれのライター。ケーブルテレビガイド誌の編集を経てフリーランスに。映画系を軸にエンタメネタを執筆している。親類縁者で唯一の映画好きとして育った突然変異。

■作品情報
金曜ドラマ『病室で念仏を唱えないでください』
出演:伊藤英明、ムロツヨシ、松本穂香、片寄涼太(GENERATIONS from EXILE TRIBE)、谷恭輔、うらじぬの、土路生優里、吉田日向、土村芳、安井順平、時朗、横田真悠、堀内健、宮崎美子、余貴美子、泉谷しげる、萩原聖人、中谷美紀
第1話ゲスト:hitomi、永山竜弥、丸山ゴンザレス、飯窪春菜
原作:こやす珠世『病室で念仏を唱えないでください』(小学館『ビッグコミック』連載中)
脚本:吉澤智子
演出:平野俊一、岡本伸吾、泉正英、
プロデューサー:峠田浩
製作著作:TBS
(c)TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/nembutsu_tbs/

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「アクター分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる