『パラサイト』は“百花繚乱の時代”の象徴に? 『シュリ』から始まった韓国映画の20年
『パラサイト 半地下の家族』の第92回アカデミー賞での作品賞受賞により、今注目が集まっている韓国映画。これまでもここ日本では、多くの韓国映画が上映され、『パラサイト 半地下の家族』以上の興行収入を記録したヒット作品もある(2月18日現在)。
「韓国映画」と一口に言っても、ラブコメや社会派映画、ノワールなど当然ジャンルは様々だ。韓国映画を観続けてきたライター・麦倉正樹が、日本で韓国映画が広まり始めたここ20年を個人的な感慨とともに振り返った。(編集部)
『シュリ』から始まった、韓国映画の20年
“韓国映画”と言えば、恥ずかしながら『桑の葉』(1985年)くらいしか思い浮かばなかった筆者が、現在進行形で制作され公開される映画として“韓国映画”を強く意識するようになったのは、同時代の映画ファンの多くがそうであったように、2000年の1月に日本公開されたカン・ジェギュ監督の『シュリ』(1999年)からだった。韓国映画としては当時最高額となる制作費を投入して生み出されたという本作は、韓国の諜報部員と北朝鮮の工作員の悲恋を軸としつつも、派手なアクションシーンをはじめ全力でエンターテインメントに振り切った、実に気概のある作品だった。冷戦時代も終わりを告げ、国家間の対立や諜報といったモチーフが次第にリアリティを失っていく中で突如現れた、現在進行形で緊迫する朝鮮半島情勢をモチーフとした本作。しかもそれを、一大エンターテインメント作品として描いてしまうことに、何よりも驚いた。かくして、韓国映画としては異例の規模で公開された『シュリ』は、興行収入約18億円という大ヒットを記録。以降、日本における韓国映画の道筋を作った、記念すべき作品となったのだ。
実際、翌2001年には南北朝鮮の軍事境界線にある「共同警備区域(Joint Security Area)」を舞台としたパク・チャヌク監督の『JSA』(2000年)が、2004年には1980年代後半に発生した「華城連続殺人事件」を追う刑事たちを描いたポン・ジュノ監督の『殺人の追憶』(2003年)が公開。それら3本の映画すべてにソン・ガンホが出演していることに今さらながら驚くけれど、同じく2004年には韓国政府が1971年に極秘裏に進めていた金日成暗殺計画をモチーフとした『シルミド』(2003年)、朝鮮戦争に翻弄される兄弟を描いた『ブラザーフッド』(2004年)など、話題作が相次いで公開されるなど、韓国現代史の“苦悩”や深い“闇”をエンターテインメントとして描き出す一連の作品は、韓国映画のひとつの強烈な“個性”として、多くの映画ファンのあいだで認知されるようになったのだ。
『猟奇的な彼女』と“第一次韓流ブーム”
当時の韓国映画の勢いは、それだけに留まらなかった。そこで思い起こされるのは、2003年に日本でも公開され、一大ブームを巻き起こしたクァク・ジェヨン監督の『猟奇的な彼女』(2001年)だ。いわゆる“社会派”でも“政治的”でもなく、むしろ軽妙なタッチの“ラブコメ”映画である本作は、日本の若者たちからも支持を獲得。「猟奇的な」という言葉が、それまでとは異なる「ヤバい」くらいのポップなニュアンスで用いられるようになると同時に、本作で“猟奇的な彼女”を演じたチョン・ジヒョンの人気も上昇、日本のテレビCMに出演するなどの活躍をみせる。そして、2004年には、同監督とチョン・ジヒョンが再びタッグを組んだラブコメ映画『僕の彼女を紹介します』(2004年)が日本でも公開。『シュリ』の興行収入を早くも塗り替える約20億円という大ヒットを記録するのだった。
ちなみに同年、NHKはBS放送での好評を受け、韓国ドラマ『冬のソナタ』の放送をNHK総合でもスタート。その主演を務めたペ・ヨンジュンが、“ヨン様”として、本国以上の人気を日本で獲得することになった(その相手役を務めたチェ・ジウも大人気だった)。そして、ヨン様の人気が牽引する形で、“第一次韓流ブーム”が日本で巻き起こると同時に、ラブコメやメロドラマ的なテイストをもった韓国映画も続々と公開されてゆく。とりわけ、2005年に公開されたペ・ヨンジュン主演のラブロマンス『四月の雪』(2005年)は、『僕の彼女を紹介します』を超える約27.5億円という興行収入を記録。さらに同年の秋には、日本のテレビドラマ『Pure Soul~君が僕を忘れても~』(日本テレビ系)を原案とする純愛ラブストーリー『私の頭の中の消しゴム』(2004年)が公開され、日本で公開された韓国映画としては現在もトップとなる約30億円の興行収入を記録するなど、“第一次韓流ブーム”の到来と共に、韓国映画はひとつのピークを迎えるのだった。