ポン・ジュノは初めからポン・ジュノだったーー『パラサイト』でアジア映画初の偉業を果たすまで

ポン・ジュノ監督の凄さを過去作から紐解く

 ポン・ジュノ旋風が吹き荒れている。監督作『パラサイト 半地下の家族』が、カンヌ国際映画祭で韓国映画に初の最高賞パルムドールをもたらしただけでも快挙だが、その勢いに乗って、同作がアカデミー作品賞、監督賞、脚本賞、国際長編映画賞の主要4部門を獲得するという、韓国はおろかアジア映画初の偉業を成し遂げたのだ。

『パラサイト 半地下の家族』(c)2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED

 とくにアカデミー賞の受賞は、これをきっかけに、韓国映画をはじめアジアのエンターテインメントが、広く世界で勝負できるようになる可能性が生まれたと言っても過言ではないだろう。そんな功績を成し遂げることができたのには、韓国映画自体の総合的な躍進や、韓国の財閥CJグループの援助など、噂されたり分析されたりしているような、様々な要素が関係しているのは確かだろう。

 しかし、あくまで主要因は作品そのものであるはずだ。そして、それを作り上げたのが、ポン・ジュノ監督の圧倒的な才能であることを忘れてはならない。ここでは、そんなポン・ジュノ監督の凄さについて、主要な過去作を振り返りながら述べていきたい。

 大学の社会学科に在学していたポン・ジュノは、短編映画で頭角を現し、優れた人材を養成する韓国国立映画アカデミーに入学した経歴を持つ。そこでわずか1年勉強しただけで、作品が複数の国際映画祭に招待されるという事態が起こる。ポン・ジュノは、もう初めからポン・ジュノだったのである。

『ほえる犬は噛まない』(c)2013 CJ E&M CORPORATION, ALL RIGHTS RESERVED

 劇場デビュー作である『ほえる犬は噛まない』(2000年)の時点で、すでにポン・ジュノ監督の圧倒的な才能は大きく花開いていた。この作品で、すでにいくつかの世界的な賞を獲得しているが、ここで世界三大映画賞の主要な賞を獲得していたとしても、何の不思議もないレベルの作品である。そう、いまから数えて、20年遅かったのだ……!

 団地の小型犬連続失踪事件を、ペ・ドゥナ演じる経理係の女性が追うという、その後の作品群と比べると、ちょっとほほえましさを感じるミステリー作品だが、巨大な団地を幾何学的にとらえた撮影や、坂道を転がるトイレットペーパーの動きなどのアーティスティックな映像美が見事だ。すでに本作で、『パラサイト 半地下の家族』に至る素地は完成していたと言ってもいい。

『殺人の追憶』(c)2003 CJ E&M CORPORATION, ALL RIGHTS RESERVED

 そしてその3年後、ポン・ジュノの名を広く知らしめた第2作である、当時未解決だった連続殺人事件を基にした『殺人の追憶』(2003年)が公開される。この作品を鑑賞したほとんどの観客と、この感覚は共有できると思うが、たった2作目でここまでの領域にまで到達するというのは、ほとんど信じ難い事態である。

 重厚感のある撮影、硬質な人間ドラマ、観客の心理をコントロールする演出、皮肉漂うユーモア、韓国の歴史への批判的な視点、そして全体に漂うミステリアスな雰囲気など、そのどれもが高いレベルに到達している。あまりの万能的な才能に、黒澤明監督やスティーヴン・スピルバーグ監督の名を出して激賞する者は、公開当時一人や二人ではなかった。

 ここまでで、すでに国際的な賞の獲得数は、おびただしいものとなっている。とはいえ、世界三大映画祭最高賞や、アカデミー賞への道はまだ遠かった。この『殺人の追憶』を最高傑作だとする観客も多いが、その後、ポン・ジュノ監督はまだまだ進化していく。

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