『スキャンダル』が投げかける重いテーマ “権力”と“男らしさ”の分かち難い関係性を考える

『スキャンダル』が投げかける重いテーマ

 アメリカの保守系ケーブル局FOXニュースで、2016年に起きたセクシャル・ハラスメント訴訟を描いた映画が『スキャンダル』である。ベテラン女性キャスターであったグレッチェン・カールソンが、FOXニュースを視聴率ナンバーワンの人気放送局へと成長させた敏腕CEO、ロジャー・エイルズを訴えたのだ。この訴訟は、全世界的な注目を集めたワインスタイン事件(米映画プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインが数多くの女性にセクシャル・ハラスメントや性的暴行を繰り返していた問題。ワインスタイン・カンパニーは倒産し、本人は逮捕された)に先駆けること1年、勇気を持って声をあげた女性たちの行動であり注目に値する。

 ワインスタイン事件は、後の#MeToo運動へつながるきっかけとなったが、『スキャンダル』はこうした男女平等の流れをあらためて辿りつつ、女性が日々直面している不安、権力とハラスメントの関係について具体的に描いている。セクシャル・ハラスメントに立ち向かう女性キャスター役として、ニコール・キッドマン、シャーリーズ・セロン、マーゴット・ロビーが配される。監督は『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』(2015年)、『俺たちスーパー・ポリティシャン めざせ下院議員!』(2012年)などを手がけたジェイ・ローチが務めた。

 社会における男女のあり方や旧来的な価値観を見直す動きは、昨今の米映画作品において主要なテーマになりつつある。日本で2020年に公開された作品に絞っても、次期大統領候補の超エリート女性と、ほぼ無職のジャーナリスト男性との格差恋愛を描いた『ロング・ショット 僕と彼女のありえない恋』(2019年)や、生活苦に悩む女性たちが犯罪に走る『ハスラーズ』(2019年)が挙げられる。これらの作品で描かれる、古い性役割や男性優位の社会に対する批判的な視点は『スキャンダル』にも共通したものだ。

 『スキャンダル』はアメリカ社会全体の動きをとらえた構成が特徴で、劇中、女性蔑視を剥き出しにしたドナルド・トランプ(劇中ではまだ大統領候補である)と、FOXニュースの女性キャスターであるメーガン・ケリー(シャーリーズ・セロン)との衝突を題材として取り入れるなど、作品のテーマをよりきわだたせる印象的な工夫がなされている。

 セクシャル・ハラスメントの被害を受ける女性は、実際の状況においてどのような心境なのか。彼女たちの感じた屈辱や恐怖はいかなるものか? 特に男性は、こうした状況下で具体的に女性がどのような感情を抱くのか、想像することが難しい。『スキャンダル』は実際のセクシャル・ハラスメントの状況を描写しつつ、女性がその場面で本当は何を考えているか、実際に交わされる男女の会話と同時に、観客に女性の「心の声」が聞こえてくるという手法が取られる。このアイデアは実に秀逸である。

 「君と親密な関係になりたい」と迫ってくる男性上司に対して、冗談でごまかす、友達であると伝える、誤解させてしまたことを謝る、などの方法でどうにかその場を切り抜けようとする女性。必死に作り笑いをしながら「ここで断ればもう私はクビだ……」と焦る女性の独白(女性は誘いを断ったことで、解雇の憂き目にあう)。なるほどハラスメントとはここまで息苦しく恐怖を感じさせるふるまいなのかと、観客を納得させる効果的な場面であった。性行為に応じなければ失職、という状況がいかに理不尽であるかを思い知らされる。

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