世界中の人間に共通する課題 “なさそうでなかった”戦争映画『ジョジョ・ラビット』が描いたもの

世界中の人間に共通する課題 “なさそうでなかった”戦争映画『ジョジョ・ラビット』が描いたもの

 ナチスドイツを題材にした、“なさそうでなかった”戦争映画『ジョジョ・ラビット』は、観客に新鮮なインパクトを与える作品だ。本作は、ナチスの青少年組織“ヒトラー・ユーゲント”に所属し、アドルフ・ヒトラーを崇拝する10歳の子どもの目を通して、一種のおとぎ話のような世界を描いている。

 1945年のナチスドイツ崩壊から、すでに75年。当時を知る世代が少なくなるなか、この題材を扱う人々も、鑑賞する人々も、その多くが実際の体験から切り離されたかたちで、歴史的な悲劇に向き合っている状況といえる。

 では我々は今後、ナチスドイツの行ったような、人類が犯した過去の許されざる行為を、博物館の展示ガラスを通すように、あくまで距離をとった“歴史”の一部としてとらえることしかできなくなっていくのだろうか。本作『ジョジョ・ラビット』は、そんな不安に対し、ひとつの答えを提示する作品となっていた。ここでは、その内容を振り返りながら、本作が描いたものを明らかにしていきたい。

 まず目を見張るのは、映像や演出に漂うポップな雰囲気だ。画面の色合いについては、過去の出来事だと思わせるように、少しシックな色調に抑えてあるものの、それでいてカラフルな色が躍り、心を浮き立たせるイメージを与え、一見して“現在の作品”と思わせている。さらには、ほとんどギャグといえるようなユーモアの含まれた場面がいくつも用意され、時代に合わないビートルズやデヴィッド・ボウイらの楽曲が使用されているのが興味深いところだ。トリッキーな手法ではあるが、それによって現在の観客は、当時を“いま”としてとらえることになる。

 このあたり、ウェス・アンダーソン監督の『ムーンライズ・キングダム』(2013年)を想起させられる、一種の“ゴキゲンさ”も存在しているといえる。ナチスドイツを題材とした映画といえば、たいていは彩度が低く、硬く冷たい印象を与える作品が多い。それは、ドイツ国内外のユダヤ人を捕らえ、収容所で大量の集団殺戮(ジェノサイド)を行ったという、世界の歴史でも類を見ない、狂気の国家的犯罪が存在したことを思えば、当然だともいえるだろう。

 本作の監督、タイカ・ワイティティは、ブレイク作となった『マイティ・ソー バトルロイヤル』(2017年)において、ある民族が故郷を失った悲劇的なシーンで、わざわざギャグを放ったという過去がある。コミック原作映画だから良かったようなものの、そのシーンを思い出すと、実際の歴史を題材にした本作を観るにあたって一抹の不安を覚えるのは仕方がないことかもしれない。

 そのあたりの不安を払拭する材料は、この作品の主人公ジョジョが、総統に心酔するヒトラー・ユーゲントに所属する少年であり、彼の目線で世界が描かれていくという部分である。少年は、ナチスの理念や方針を盲目的に受け取っており、ナチスドイツを、それこそ“アベンジャーズ”のような正義の存在だと信じきっているのである。そんな組織の一員として正義のために協力できるというのは、さぞ楽しいことだろう。カラフルで楽しい雰囲気なのは、ジョジョのそんな内面を反映しているのだ。

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