『スカーレット』の“生々しさ”はいかにして生まれた? 制作統括&チーフ演出が語る制作の意図

『スカーレット』CP&Dが語る、制作の裏側

 年末年始の放送休止期間を挟み、本日1月6日から再スタートとなるNHK連続テレビ小説『スカーレット』。12月の放送では、喜美子(戸田恵梨香)と八郎(松下洸平)の結婚、2人の子供の誕生、父・常治(北村一輝)の死まで怒涛の展開で描かれた。

 視聴者からも“生々しい”“リアル過ぎる”など、称賛の声が送られている本作だが、その理由は一体どこにあるのか。制作統括の内田ゆき、チーフ演出の中島由貴の両名に、『スカーレット』に込めた思いから、制作の裏側まで話を訊いた。

「“生活者としてのリアリティ”は絶対に失いたくない」

ーー内田さん、中島さんは2017年に放送されて人気を博した『アシガール』でもタッグを組んでいます。今回の『スカーレット』はどんな形で企画がスタートしたのでしょうか。

内田ゆき(以下、内田):「2019年度後期の“朝ドラ”を担当する」ということだけは先に決まり、誰に脚本をお願いするか、どんなお話にするかは何も決まっていませんでした。“朝ドラ”を手がけるのであれば、主人公の青春時代から50代頃までしっかりと描きたいという思いがまずありました。そこで、女性の生き様を描くことでは定評がある水橋文美江さんに脚本をお願いできればと。ご連絡したらすぐに「やりたいです!」と言ってくださり、本当に感動しました。

――水橋さんとは「好きな作品の傾向が同じ」と別のインタビューで語っていましたが、具体的にはどんなテーマの作品だったのでしょうか。

内田:スケールの大きいお話というよりは、小さいコミュニティの中で少しずつ変化が起きていくようなお話ですね。不完全な人たちが善意を動かすことによって、幸せが生まれていくような。水橋さんはそういったお話は作るのは非常に難しいと語っていましたが、『スカーレット』は最初に共有したイメージ以上のものを作り上げてくださっています。

――確かに『スカーレット』は怖いぐらいの“生々しさ”を感じるシーンが随所にあります。本作のそういったトーンは演出チームでも意識されているのでしょうか。

中島由貴(以下、中島):“生活者としてのリアリティ”は絶対に失いたくないと思って制作しています。作品によっては、「この人たちはいったいどんな生活をしているんだろう」と思ってしまうものがあります。また、ヒロインに関してもお姫様のように扱われて、周りの登場人物が引き立て役だけになるようなことにはしたくありませんでした。視聴者の皆様と同じ目線にこのドラマの世界はあると思ってもらえるように心がけています。

 水橋さんの脚本は、単に台詞が書いてあるわけではなく、細かくト書きで「何々しながら~」と書かれていることが多いんです。やっぱり私たちの生活でも、誰かと話すときに棒立ちでまっすぐに向かい合って話すのではなく、洗濯物を畳んでいたり、何かを見ていたり、料理していたり、みんな「何かをしながら」が多いと思うんです。なので演出部としては、そういった何気ない動きを役者の皆さんにも気にしてもらうようにお願いしています。何より水橋さんが生み出す言葉のひとつひとつが本当に強度のあるものなので、それが視聴者の方々にも“リアル”と感じてもらえているんだと思います。

――喜美子は本格的に陶芸家への道を歩み始めましたが、“女性陶芸家”を題材にすることは水橋さんとの話し合いの中で決まったのでしょうか。

内田:歴代の朝ドラヒロインはさまざまな職業に就いてきましたが、自分の手で何かを生み出す女性を今回は描きたいという思いがありました。いろんな物作りの職業の中に、信楽の陶芸がありました。実際に取材をさせていただくと、“手”から力が伝わり作品となっていくんだなと実感したんです。映像的にも地味なようで、“何かを生み出す”という点においてかなり説得力があるのではないかと。そして何ができるか分からない面白さもあります。それは人生とも似ていますよね。思っていたものと違ったものが生まれたとしても、決してそれは失敗ではない。加えて、タイトルにもしているように、炎のイメージが主人公の生き様と重ねればいいなと思い、この題材となりました。でも、実際に撮影に入ってみたら予想以上にいろいろと大変で、演出陣は日々大変な思いをしています。

中島:喜美子や八郎が作る陶器は撮影のために新たに作ってもらっています。大体2週間は制作期間としてかかるので、撮影の前に早め早めに準備をしないといけません。台本と照らし合わせながら、このシーンを撮るためにはどれだけ前に陶器が完成していけないか、日々確認しています。

――八郎が陶芸展で入選した作品もゼロから作られていたものだと。

中島:そうですね。現時点で喜美子と八郎が作っているものは基本的に、ドラマのために新たに作ってもらったものです。だから陶器が出てくるシーンでは、ゼロからデザインも考えないといけないですし、絵付けなどもしなくてはいけない。陶芸指導、絵付け指導の先生方には、本当に多大な協力をしていただいており、日々感謝しています。

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