『俺の話は長い』生田斗真の逡巡 “やりたいこと”と“できること”の葛藤を描く

『俺の話は長い』生田斗真の逡巡

 揚げたてのトンカツと春海(清原果耶)の進路の悩みとで板挟みにされる満(生田斗真)を描いた前半のエピソード『トンカツと占い』。その中で春海から「自分の人生になると途端に迷子になる」と言われた満が、まさに“迷子”になってしまった様が描かれた後半の『ラーメンとフリーマーケット』。さらに“出来立てを食べる”という表現や、来来軒に占いのおじさんやラーメンなど、前後のエピソードが明確なつながりと同じベクトルを持ち合わせることで、どことなく物語のクライマックスが近付いていることを予感させた7日放送の日本テレビ系列土曜ドラマ『俺の話は長い』第9話。

 このまま綾子(小池栄子)たちの家のリフォームが終わって家族5人がバラバラになっても、彼らの日常は大きく変わらないだろうという予感さえ漂っていたこれまでの展開から一転して、満の優雅なニート生活が確実に動きが見えはじめる。相変わらず“自分が嫌じゃないこと”から仕事になるものを探し始めながらも、それが全然仕事に直結しない事に悩む満は、挙句にジグソーパズルでお金がもらえないかと考えはじめる始末。そして光司(安田顕)が町内会のバンドを結成して音楽との新たな向き合い方を見出したことをうらやましく思いながら、自分の“才能”について見つめ直す。そこで持ち上がったのは、以前に檀野(長谷川初範)の紹介で光司が面接を受けた議員秘書の仕事だった。

 けれども満は、ちっとも気に入らないどころか、綾子にいつも通りの口撃をけしかける。そこにあるのは、“嫌じゃないこと”を見つけて仕事にしたいのに見つからないことと、6年間もニート生活を送っていたからそう簡単に見つけられるわけがないということのジレンマ。そして、それらをわかっていながらも家族や周りからのお膳立てであっては嫌だというプライドであろう。完全にこれまでとは異なる形で“迷子”になった満を待っていたのは、海星(杉野遥亮)からの「これしかないって仕事は最初だけ。同じ感覚を求め続けても無駄だって気付いたほうがいい」という直球の言葉と、明日香(倉科カナ)からの「やれ」の二文字だけの伝言だ。

 考えてみれば、大きなブランクや紆余曲折を経て“嫌じゃないこと”を仕事にしたいと探し始めたことは、あまりにも消去法的な選択肢である。それだけに、以前模索していたような“やりたいこと”に極めて近い“自分の才能を活かせる”という、“できること”へとフォーカスしはじめた満は、振り出しに戻ったように見えて大きな一歩を踏み出したと言えるだろう。そうした点を踏まえると、前半のエピソードでラジオパーソナリティになりたいと相談してきた春海に対して満が語りかける「いろんな経験を積んでから目覚めてほしい」という言葉は、まだその時点では“嫌じゃないこと”を探していた満にとって、自分自身に向けた言葉とも取れるような気がしてならない。

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