吉岡里帆、『時効警察』の“振り回す”役で本領発揮? 視聴者が虜にされる“吉岡マジック”とは
思えば、彼女の存在を一躍有名にした、NHKの連続テレビ小説『あさが来た』の“丸メガネののぶちゃん”こと田村宜が、そもそもそういう役だった。そして、その“演技力”という面で、多くの人を驚かせた『カルテット』(TBS系)で、彼女が演じた来杉有朱というキャラクター。それは、松たか子、満島ひかり、高橋一生、松田龍平という強固な“カルテット”に、果敢に挑んでゆく、まさしく“トリックスター”的なキャラクターだった。というか、その彼女が満面の笑みを湛えながら、その最後に発した「人生、チョロかった!」という台詞は、多くの視聴者の度肝を抜いたし、いまだに心に刻みつけられている。
にもかかわらず、それらの好演によって連続ドラマの主演の座を射止めた彼女がその後演じてきたのは、『ごめん、愛してる』、『きみが心に棲みついた』(ともにTBS系)、そして『健康で文化的な最低限度の生活』(カンテレ・フジテレビ系、以下『ケンカツ』)など、どこか朴訥とした真面目で地味な女性ばかりだった。『ケンカツ』の義経えみるには、自ら道を切り開く主体性が時折見られたが、いずれも“受け”の芝居が多いというか、ある人物(その多くは男性)によって“振り回される”女性を演じていたように思うのだ。否、もちろん、それはそれで魅力的ではあるのだけれど、『カルテット』の有朱のような破天荒な彼女は、すっかりそのなりを潜めていた。という中での、『時効警察はじめました』であり、彩雲真空なのである。そこに快哉を叫ばずにはいられようか。しかも、彩雲くんは、周囲の人間を“振り回す”だけではなく、ときには自虐とも思える笑いも醸し出す、“コメディリリーフ”としての役割も担っているのだ。もう長らくチームを組み、完全に気心知れたキャストやスタッフの中に飛び込んで、物怖じすることなくドラマ自体に新鮮な息吹を注ぎ込んでいる彩雲くん。いやはや、こんな役、彼女にしかできないだろう。
とはいえ、そんなシェイクスピアの『真夏の夜の夢』における“妖精パック”のような“トリックスター”然とした“コメディエンヌ”としての魅力だけが彼女の持ち味ではないことは、すでに重々わかっている。先述の『きみが心に棲みついた』で見せた迫真の芝居はもとより、映画『パラレルワールド・ラブストーリー』では、同じ名前、同じ姿でありながら、2つの世界で別の人格を演じるという難役を、さらには映画『見えない目撃者』では、視覚障がいを持ちながら、殺人事件の犯人を追うという難役を、いずれも好演していた彼女。しかしながら、筆者が最も心動かされたのは、アニメ映画『空の青さを知る人よ』で彼女が声を当てていた相生あかねという人物だった。吉沢亮が高校時代と現在の両方の声を演じ分けた金室慎之介、そしてあかねの妹である相生あおい……その2人が、それぞれに、その幸せを願ってやまない、物語の実質上の中心人物である相生あかね。心に傷を負いながらも、他人に対する優しさと、毅然とした意志を持つこの人物を、吉岡里帆はその“声”によって見事に表現していたのだ。周囲の人々を“振り回す”能動的なキャラクターから、周囲の人々に“振り回される”受動的なキャラクターまで。さらには、“コメディエンヌ”としての快活なキャラクターから、おっとりした口調の中に毅然とした意志を持つ“大人の女性”まで、出演作を経るごとに、新たな魅力を振りまいている女優・吉岡里帆。願わくば、これからもこの調子で、どんどん我々を“振り回して”ほしい……もっと言うならば、その演技力によって、我々の心を、もっともっと“かき乱して”ほしい。それが今の正直な気持ちである。
■麦倉正樹
ライター/インタビュアー/編集者。「リアルサウンド」「smart」「サイゾー」「AERA」「CINRA.NET」ほかで、映画、音楽、その他に関するインタビュー/コラム/対談記事を執筆。Twtter
■放送情報
金曜ナイトドラマ『時効警察はじめました』
テレビ朝日系にて、毎週金曜23:15~深夜0:15放送(※一部地域を除く)
出演:オダギリジョー、麻生久美子、吉岡里帆、豊原功補、ふせえり、江口のりこ、緋田康人、光石研、岩松了、磯村勇斗、内藤理沙、田中真琴
脚本・監督:三木聡ほか
ゼネラルプロデューサー:横地郁英(テレビ朝日)
プロデューサー:大江達樹(テレビ朝日)、遠田孝一(MMJ)、山本喜彦(MMJ)
制作:テレビ朝日、MMJ
(c)テレビ朝日
公式サイト:https://www.tv-asahi.co.jp/jikou2019/