『ジョーカー』ホアキン・フェニックスに拍手喝采 過去最高の最狂ヴィランはどう生まれた?

J・フェニックス『ジョーカー』拍手喝采のワケ

 コミック史上最も有名なヴィランの知られざる物語を描いた『ジョーカー』(2019)は、ホアキン・フェニックスの新たなマスターピースとなった。第76回ヴェネツィア国際映画祭では最高賞にあたる金獅子賞を受賞し、本年度アカデミー賞の大本命と目されている。賞レースの目玉である本作は、絶対に見逃せない作品だ。いわゆるアメコミ映画としては、異例の喝采ぶりである。

ヴェネチア国際映画祭に登壇したトッド・フィリップス監督とホアキン・フェニックス

 バットマンの最大の敵にして、最狂のヴィランであるジョーカーは、いくつかの映像作品の中にたびたび登場している。稀代の犯罪王を演じた歴代の名優たちは、異なる魅力と個性を擁して唯一無二のジョーカーを演じてきた。どのジョーカーもさまざまな良さがあり、ひとつとして同じものはない。

 実写における初代ジョーカーは、テレビシリーズ『怪鳥人間バットマン』(1966-1968)のシーザー・ロメロ。スラップスティックな演技と、コミカルな語り口のロメロ版は、以降の実写版ジョーカーの手本となる存在となった。

 映画における最初のジョーカーは、ティム・バートン監督の『バットマン』(1989)で、名優ジャック・ニコルソンが扮した。『カッコーの巣の上で』(1975)『愛と追憶の日々』(1983)など、アカデミー賞受賞歴のあるジャック・ニコルソンは、その時点ですでに実力派俳優として名を馳せていた。今でこそアメコミ映画は市民権を獲得しており、キャストにオスカー俳優を起用するなど当たり前となったが、当時としては、ニコルソンのような名優の出演は異例だった。ロメロ版のようなユニークさと、ニコルソンの怪演ぶりが融和し、現在まで語り継がれる狂気のカリスマを体現した。

 近年のジョーカーといえば、クリストファー・ノーラン監督の『ダークナイト』(2008)が最も印象的だ。同作でジョーカーに扮したのは、若き逸材として注目された故ヒース・レジャー。ロメロ版、ニコルソン版とは大きくかけ離れたシリアスな演技と、得体の知れないオーラに満ちた、新機軸のジョーカーを表現した。その存在感と演技力は、以降、ジョーカーを演じた俳優たちのある種の目標として掲げられている。レジャーは『ダークナイト』の公開を待たずして、処方薬の過剰摂取でこの世を去った。死後、レジャーはアカデミー賞助演男優賞を受賞し、ジョーカー=レジャーという認識を確固たるものとしたのだ。

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