『鬼滅の刃』はなぜ何度も映画化されるのか? ufotableと日本劇場アニメ史の集大成

『劇場版「鬼滅の刃」無限城編』第一章の公開日が、7月18日に決まった。夏休み興行である。
どう公開日を決めたのか定かではないが、『鬼滅の刃』のようなビッグタイトルは、どんなタイミングで上映しても大量動員が可能なので(事実『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』は閑散期の10月公開のコロナ禍にもかかわらず400億円超えという記録を打ち立てた)、あえて閑散期に公開日すると映画業界全体は嬉しいのではと思っていたが、まあ、いろいろな事情があるのだろう。

すでに世界150カ国での公開が決まっているというのもすごいことだ。日本アニメのグローバル化を実感する。
だが、筆者が今回の『鬼滅の刃』の劇場施策で一番驚いたのは、4月4日から始まる『鬼滅シアター - 「鬼滅の刃」特別編集版 劇場上映-』だ。これは、同作のテレビシリーズ「竈門炭治郎 立志編」から「柱稽古編」までの特別編集版で、この「特別編集」がどういう意味か詳細がわからないが(今わかっているのは、新規映像として特別な舞台裏映像を準備中であること)、『鬼滅シアター』の上映一覧を見る限り、これまでのテレビシリーズのほとんどのエピソードを上映することになってもおかしくない。

日本では、テレビアニメの総集編や先行上映という興行形態が定着しているが、実のところ、総集編といった興行形態は世界的に見ても珍しいものだ。しかし、その珍しさの中でも『鬼滅シアター』はさらに異例だ。
しかし、これは時代の要請かもしれない。劇場と配信(テレビ)の垣根のない時代に生まれる必然的な帰結であると同時に、『鬼滅の刃』でなければ成し遂げられない偉業ではないかと思う。
日本アニメの総集編文化

テレビアニメを映画館で上映する総集編や先行上映は、意外と歴史が深い。1963年、東映動画の制作した『狼少年ケン』がすでにテレビアニメ版をブローアップして上映するという試みを行っている。以降も日本のアニメにおいて定着し、『宇宙戦艦ヤマト』や『機動戦士ガンダム』といった作品の劇場版は、社会現象となり、アニメファンの社会的認知を高めることとなった。
2024年から2025年にかけて、こうした上映形態がひときわ元気だ。2024年の『劇場総集編ぼっち・ざ・ろっく!』2部作は、合わせて12億円以上の興行収入を記録。『劇場版「進撃の巨人」完結編 THE LAST ATTACK』もロングランヒット中で16億円を超えている。
そして、2025年1月から上映され現在もヒットが続いている『機動戦士Gundam GQuuuuuuX -Beginning-』は先行上映ながら、興行収入30億円目前まで迫っている。
すでに放送済み、配信でいつでも、あるいは待てば無料でテレビで観られる映像でも、これだけのヒットを生み出せる状態となっている。これらの上映形態は、映画館は、ただ最新の作品がいち早く観られるだけが取り柄ではないということの証左ではないかと思う。
劇場クオリティを追求してきたufotable

『鬼滅の刃』シリーズは、空前の大ヒットとなった『無限列車編』の後、「ワールドツアー」と題して、新テレビシリーズの第1話と前シリーズの最終話をあわせて上映する形態でヒットを作り出していた。『鬼滅の刃』という巨大な人気を誇るシリーズだからこそ可能な上映形態だったと言えるだろうが、『鬼滅シアター』はさらに大胆な試みだ。上映される映像のほとんどは、配信でいつでも観られるのに、わざわざ劇場で観せるのだ。それだけ大スクリーンで観たいというニーズが多い作品なのだろう。
同作を制作するのは、ufotableだ。数ある日本のアニメスタジオの中でトップランナーの一つとして知られる同スタジオは、常に「劇場レベル」のクオリティを追求してきた。『空の境界』でOVAの劇場展開という興行形態にトライし、『Fate/Zero』から始まる『Fate』シリーズでは、テレビシリーズで劇場クオリティを追求するという挑戦を経てきた同スタジオの到達点が『鬼滅の刃』であり、その答えが『鬼滅シアター』と言えるかもしれない。
実際、筆者は過去2回の「ワールドツアー」上映をどちらも映画館で鑑賞しているが、大きなスクリーンに見劣りしない映像に仕上がっていた。むしろ、自宅のテレビや、ましてスマートフォンで観るのはもったいないと感じた。




















