多部未華子、吉高由里子の主演作が高評価 2019年のお仕事ドラマに現れた“ルール遵守”のヒロイン

現代のお仕事ドラマ、高評価の秘訣は?

 「経費」については、森若さんが所属する会社でも「社長案件」と呼ばれるイレギュラーケースが存在するようだったが、どちらかと言えば特例をあくまでルール内できちんと仕分けていくのが彼女の仕事で、その「仕分け方」にこそ彼女自身の優しさや粋な計らいが光っていた。対して『わた定』では、前述の通り「定時で帰る」という、まだ曖昧で正解のない考え方について、主人公も周囲の社員と一緒に「より自分らしい働き方ができるように一緒に考えていこうよ」というようなスタンスをとっていたのが印象的だった。その点ではアプローチは異なるものの、やはり両者ともに自分の仕事に対する考え方、捉え方が明確であるからこそ、相手の意見に耳を傾け自身の考え方も伝えることができるという余裕があったのは共通している。

『これは経費で落ちません!』(写真提供=NHK)

 そんなヒロインの恋のお相手もまたひたむきに仕事に取り組む。『これは経費で落ちません!』の太陽くん(重岡大毅)も、『わた定』の種田さん(向井理)も、必ずしも仕事に対する考え方が主人公と一致していたわけではなかった。それでも、やはり彼らもまた自身の信念を語る“自分の言葉”を持ち、彼らが何気なく言った言葉がヒロインを救う場面が多々あった。

 今、THE恋愛ドラマ一色ではなかなかヒットが難しく、また共働きが当たり前になってきている時代でもある。だからこそ、「仕事」という生涯の営みについてヒロインが四苦八苦しながらも、その仕事ぶりを通して人となりがあぶり出され、そこに惹かれる男性が現れる。そして時にぶつかりながら、互いに励まし合って愛を育んでいくようなストーリーの方が視聴者にとってもすんなり入ってきやすい上、それこそが「ドラマだからこそのちょっとした夢があって良い」という淡い期待を描きやすい憧れのシチュエーションとなっているのかもしれない(「種田さんのような上司が職場にいたら……」「近くの部署に太陽くんのような存在がいたら……」と単純に妄想して楽しんだ視聴者も多かったはずだ)。

 「仕事」を巡る人間関係をコミカルに描きながらも、そこに主題というよりはサブとして恋愛要素が盛り込まれている。それくらいのバランスがリアルでいて理想的だと言えるのだろう。

■楳田 佳香
元出版社勤務。現在都内OL時々ライター業。三度の飯より映画・ドラマが好きで2018年の劇場鑑賞映画本数は96本。Twitter

■放送情報
ドラマ10『これは経費で落ちません!』
NHK総合にて、毎週金曜22:00〜22:49放送(連続10回)
出演:多部未華子、重岡大毅(ジャニーズWEST)、伊藤沙莉、桐山漣、松井愛莉、韓英恵
角田晃広、片瀬那奈、モロ師岡、平山浩行、吹越満ほか
原作:青木祐子
脚本:渡辺千穂、藤平久子、蛭田直美
音楽:安田寿之
主題歌:阿部真央
制作統括:管原浩(NHK)、坂下哲也(AX-ON)
演出:中島悟、松永洋一
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/drama/drama10/keihi/
写真提供=NHK

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