『なつぞら』広瀬すず×井浦新の幸福な師弟関係 なつを導き続けた仲さんからのエール
『なつぞら』(NHK総合)第23週「なつよ、天陽くんにさよならを」のタイトルで、視聴者が覚悟していたもの。それが天陽(吉沢亮)の死だ。その時はあまりにも呆気なくやってくる。
第23週はなつ(広瀬すず)が東洋動画を辞め、麻子(貫地谷しほり)が立ち上げた「マコプロダクション」で、北海道を舞台にした開拓者の物語『大草原の小さな家』を手がける覚悟を決める。その答えを教えてくれたのが、亡くなった天陽だ。
昔から天陽は、なつより先に答えを見出してしまう人だった。アトリエに飾られていた自画像となつは対峙する。「絵を動かすのが君の仕事だって、優ちゃんに言われたんだろ?」。そう言って、天陽はいつものようになつの背中を優しく押し出す。亡くなった人物がヒロインの前に姿を現すのは、“朝ドラあるある”の一つ。後に、なつはこの時のことを明美(鳴海唯)にいつのことなのかと問われ、「いつでも、どこでもさ」と答えるが、これは第7週「なつよ、今が決断のとき」で上京するなつに天陽が言った「どこにいたって俺となっちゃんは、何もない広いキャンバスの中で繋がっていられる」のアンサー。これまでの朝ドラの手法を踏襲しながらも、なつと天陽の魂で繋がった関係性を活かした描き方でもある。
そして、なつは天陽が雪月のために新しくデザインした店の包装紙を見て、坂場(中川大志)らが企画している『大草原の小さな家』に自分も参加することを決断する。それは十勝の大草原に一人訪れた開拓者の少女が印象的に描かれた絵。まるでなつの未来を予測したようであり、『なつぞら』第1回の始まりのシーンを思い起こさせるデザインである。坂場の言葉にもある通りに、なつが天陽の意思をも受け継ぎ、手がけるのが『大草原の小さな家』であることを示唆している。
なつがマコプロに移ることで生じるのが、東洋動画への挨拶。すでに下山(川島明)や神地(染谷将太)が東洋動画を辞め、マコプロという新天地で好きなアニメーションを創っている中で、なつを東洋動画に留める理由は、仲(井浦新)への恩だ。なつがアニメーションの世界に足を踏み入れるきっかけとなったのは天陽と仲の存在があったから。なつのアニメーターとしての才能をいち早く見出した仲の熱心な後ろ盾があってのものにほかならない。
そんな仲に、なつはついに退職の話題を切り出す。なかなか言い出せないなつ、「辞めたい」という思いもしなかった内容に呆気に取られた表情を浮かべる仲。一つの会社ではなく作品に寄り添う時代だと仲も納得した上で、2人の間で交わされるのは「裏切りではない」という仲と「弟子」というなつの思い。特に、なつが仲の弟子であると思っていたことは初めて明かされる。穏やかな物腰で人望が厚い仲。演じる井浦新は公式インタビューで仲を「上司だけど心の距離が近い人」「自分が絶対ではなく、自分にないものを常に求めていて、新しい才能を受け入れて、そこからも自分が学ぼうとするそういう姿勢でいられる人物像」と表している。日本のアニメーションの草創期に、井戸原(小手伸也)と共に新しい才能を迎え入れた師匠と呼ぶに相応しい存在だ。