吉沢亮の演技経験が活かされた『なつぞら』天陽くん 朝ドラでの大人気を経た、今後への期待

吉沢亮、『なつぞら』人気を経た今後への期待

 天陽くん! 吉沢亮じゃなくて天陽くんなのだ。吉沢亮は吉沢亮ですばらしい俳優だが、朝ドラ『なつぞら』(NHK総合)で吉沢亮は“山田天陽”以外の何者でもなかった。

 念のため説明しておく。天陽くんこと山田天陽は、『なつぞら』の主人公なつ(広瀬すず)の心の友であり、おりにつけ、なつに影響や刺激を与えてきた重要人物だ。絵を通して仲良くなって、いつも一緒に絵を描いていた青春時代は麗しい。互いに密かに恋心的なものも感じながら、なつはアニメーターになる夢をかなえるために東京に出て、天陽は北海道で農業をしながら絵を描く生き方を通した。やがてそれぞれ、伴侶を得たが、ふたりの間にある不可侵なものは変わることがない。離れていても共通の絵を描く目的(人生そのもの)でつながっている関係性だったが、天陽は働き過ぎがたたって亡くなってしまう。大切な心の友の死を前に、なつはもう一度、自分の目指す道に向き合い、歩みはじめる。

 主人公の人生における大きな転換点という重要な役割を、吉沢亮はみごとに果たした。天陽くんが魅力的で、なつに対しての影響力に説得力があって、その死が胸を打つ、この3つが大きい。

 主人公の相手役(結婚相手は別の人になったが途中まで結ばれるかも? という展開だった)としてビジュアルは申し分ない。見た目だけでなく、絵がうまく、クールで、ちょっと哲学的なことを言う。東京に行くなつとの対比として北海道にずっといる設定だから、ドラマの舞台が北海道から東京に移ると出番が少なくなってしまったとはいえ、それでもたまに出るたび印象に残る。極めつけは、亡くなる場面。青々したじゃがいも畑で亡くなる姿は神々しいほどで、自分のもうひとつの肉体のような畑をみつめる横顔が美しく、SNSは早すぎる死を悼む言葉で溢れた。

 そう、吉沢亮は美しい。とくに目を伏せたときのまつげの長さが作り出す憂いはそれだけで詩のようだ。そんな顔をしているものだから、ともすれば、“美しい顔の吉沢亮”というイメージがつきまとう。役名より吉沢亮が先に来てしまってもおかしくないのだが、なぜか不思議と吉沢亮はそうではない。こんなにも似顔絵が描きやすそうな、一度見たら忘れなそうなくっきりした顔にもかかわらず、いい意味でその顔が印象に残らない、特異な俳優だ。例えるなら、カボションカットの宝石。カクカクといくつもの面をつくるのではなくつるりと丸く仕上げ、石の色味や柄そのものの美しさが魅力になる。

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