『工作 黒金星と呼ばれた男』監督が魅了された、朝鮮半島南北分断の裏側にあった男2人の友情

『工作』監督が語る、制作の裏側

 韓国映画『工作 黒金星(ブラック・ヴィーナス)と呼ばれた男』が、7月19日より公開されている。

 本作は、1992年、北朝鮮の核開発をめぐって朝鮮半島の緊張状態が高まるなか、北への潜入捜査を命じられた実在のスパイ、黒金星(ブラック・ヴィーナス)を主人公にしたサスペンス映画。緊迫感溢れる工作活動と、命を賭けてまで尽くした祖国の闇に気づき苦悩する姿が描かれる。対北工作員の黒金星を演じるのがファン・ジョンミン、そのほか、北朝鮮の対外交渉を担当する重要人物をイ・ソンミン、韓国の国家安全企画部室長でありブラック・ヴィーナスの上司をチョ・ジヌン、北朝鮮の国家安全保衛部の要員をチュ・ジフンが演じるなど、韓国を代表する俳優たちの熱演も、大きな見どころだ。

 監督を務めたのは、2005年に軍隊問題を扱った映画『許されざるもの』でデビューし、『悪いやつら』などを代表作に持つユン・ジョンビン。南北分断の歴史を今映画にした理由や、制作の裏側について話を聞いた。

「“南は正義、北は悪”という構図ではない」

ーー90年代に北朝鮮に潜入した実在のスパイを描いた本作ですが、今この題材で作品を作ったのはなぜでしょうか?

ユン・ジョンビン:韓国の情報機関「安全企画部」に関する映画を撮ろうとリサーチしていた時に、実在のスパイであるブラック・ヴィーナスのことを知り、すごくダイナミックで衝撃的で映画にしたいと感じました。私たちの知らない世界である諜報員のディテールがとても興味深く、スパイの仕事をやっている途中で、韓国の大事な現代史である1996年の大統領選挙が関わってくるのがドラマチックで面白いなと。また、ブラック・ヴィーナスがスパイ活動を続けるなかで、集団の利益に反する選択をしなければいけない状況になるという点に惹かれました。

ユン・ジョンビン監督

ーー韓国では昨年公開され、釜日映画賞をはじめいくつもの映画賞を受賞しています。韓国国内での反響はいかがでしたか?

ユン・ジョンビン:本作はスパイ映画ではあるのですが、アクションなしで緊張感を維持するいうことで高い評価をしていただきました。韓国国民として生きる人々は、こういった北と南における問題や諜報員の存在などは、常にうっすらと意識しています。今でも、大統領選挙の時には北からの挑発があり、「陰謀論ではないか」という意見もあるので、実際かつてこういったことがあったと知って興味深いという意見も多くいただきました。

ーー南と北というテーマを扱う上で気をつけた点はありますか?

ユン・ジョンビン:いろんなところに気を遣いましたが、その中で一番大きかったのは、北と南の人物を描く際に、他の映画と同じにはしたくない、ちょっと違う映画にしたいということです。今までの映画は、「南は正義、北は悪」という構図が多かったんですが、そうではない作品にしたいと。

ーー単純な対立構造ではないからこそ、最後のシーンに深い感動を覚えました。

ユン・ジョンビン:実際、南のパク・ソギョン(ブラック・ヴィーナス/ファン・ジョンミン)と北のリ・ミョンウン(イ・ソンミン)の物語においても、友情や絆という部分が印象的で、私の考えていたテーマとも合致していました。ある1人のスパイが、最初は敵だった人の真心や信念を理解することで1人の人間として向き合うように変わっていくところを描きたかったんです。

ーー主な登場人物は4人ですが、それぞれ血の通った人物になっているように思いました。人物造形はどうしていきましたか?

ユン・ジョンビン:この4人は、北と南に2人ずつ属していますが、本人が属した権力集団の利益のために仕事をする人と、そうではない、利益をこえ世界のために仕事をする人もいる。その両方の立場を、南と北それぞれに配置しました。

ーーその中には、裏切りとも思える行為に及ぶ人もいます。

ユン・ジョンビン:そういう見方もできますね。ただ私としては「裏切った」というよりは、その瞬間の「選択」の問題であると思うんです。その瞬間、本人の利益や属している集団の利益のために動いた人もいれば、もっと広い視野で考え動いた人もいる。それは「裏切り」というより「選択」の問題なんじゃないかと私は考えています。

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