『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』なぜ圧倒的な美しさを獲得できた? 作品のメッセージを考察

『ゴジラ KOM』のメッセージを読む

人類の限界を超えるための狂気

 もう一つ言及しなければならないのは、本作における芹沢博士についての描写である。ローランド・エメリッヒ監督の『GODZILLA』では、ゴジラの発生した原因を、公開当時問題だとされていた、フランスの核実験であると描いていた。ご丁寧に、ジャン・レノ演じるフランスの諜報員が、自国の罪を反省する場面すらある。

 フランスの核実験が、国際的な問題となっていたのは確かだ。しかし、それをアメリカ側が一方的に断罪するというのは、倫理上の疑問があるのではないだろうか。ここではチェルノブイリの事故なども言及されるものの、アメリカがかつてビキニ環礁で水爆実験を行い、まさに東宝第1作の基となった「第五福竜丸事件」のような被害を引き起こしたこと、そして広島・長崎において、一般市民に向けて核兵器を使用したことについては、歴史上なかったように振舞っていたのである。

 ギャレス・エドワーズ監督の『GODZILLA ゴジラ』が画期的だったのは、芹沢博士というキャラクターや、あるアイテムを登場させることで、アメリカの過去の罪をアメリカの娯楽映画のなかで暗示するという部分があったという点である。芹沢を演じた渡辺謙のアイディアも採用されているらしいが、ここには、エドワーズ監督がイギリス出身であることからの客観性と、以前に監督が広島の原爆被害についての映画で特殊効果を担当していたという経験が活きているのではないかと思われる。芹沢博士は広島への原爆投下によって父を亡くしており、その悲劇から、最後までゴジラに対する核攻撃に反対するのである。

 本作では、そんな芹沢博士の物語が、いったん終わりを迎える。ゴジラは本シリーズにおいては自然の象徴であるが、核を動力源とする存在でもある。芹沢は、忌み嫌っていた核兵器を、再びゴジラに使用することで、世界を救おうとする。矛盾した行動のように感じられるが、これは東宝第1作で描かれた、ゴジラと芹沢博士の構図を再現させたものだといえよう。

 東宝第1作において、芹沢博士は自分が発明してしまった、広範囲の酸素を破壊し、生物の肉体を崩壊させるという最悪の兵器「オキシジェン・デストロイヤー」を使用して、ゴジラを絶命させる。その際、芹沢はこの兵器を発動させることについて苦悩していた。そして最終的に、自分もゴジラと運命を共にすることで、この兵器を戦争に利用させないという選択をしたのだ。ゴジラは、戦争の惨禍や過ちを忘れかけようとしている日本社会への、過去からの怨念としての意味もあった。だから、それを鎮めるためには、原爆と同等の兵器を発明した、罪深い人間の代表による贖罪と犠牲が必要だったという解釈もできる。

 本作の芹沢もまた、オリジナルの芹沢に近い苦渋の選択を受け入れる。だが、その目的は、東宝第1作とは、むしろ逆だといえよう。彼はゴジラを殺すのでなく、生かすために、オキシジェン・デストロイヤーと同格の、悪魔の兵器を使用する。その流れが導くメッセージとは、ゴジラが自然の怒りの化身であり、人間を断罪する象徴であるのならば、それを生かし続けることが人間の唯一の生き残る道だということである。

 人類が怪獣を絶滅させた先にあるのは、終わり無き戦争と、環境の汚染である。人類は自らを殺すように、滅亡の一途を辿っていくことを避けられない。過去の失敗を忘れ、その犠牲から顔を背けることで、過ちは何度でも何度でも繰り返される。それは悲観的な目で見るのなら、人類自身が、その発生時から運命づけられた、種としての限界だったのかもしれない。

 そんな哀れな種が遠い未来まで生き残るためには、自らの過ちの象徴を消すことをせず、いつまでも畏れ続け、太古の昔、自然を神として敬っていた謙虚な姿勢を取り戻すという手段しかない。本作は、そこまで見通した作品なのだ。その意味では、本作は『シン・ゴジラ』とメッセージを共有し、さらにその徹底性において、一歩進んだものになっているといえよう。

 怪獣を地球の王として君臨させ、人間はそのペットのような存在に成り下がる。それが表すのは、人間の生き残る最終手段としての“戦略的後退”である。この提言を異常と見るか、それとも正常と見るか。それは、観客一人ひとりの判断に委ねられている。

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter映画批評サイト

■公開情報
『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』
全国東宝系にて公開中
出演:カイル・チャンドラー、ヴェラ・ファーミガ、ミリー・ボビー・ブラウン、サリー・ホーキンス、渡辺謙、チャン・ツィイーほか
監督:マイケル・ドハティ  
脚本:マイケル・ドハティ、ザック・シールズ
配給:東宝
(c)2019 Legendary and Warner Bros. Pictures. All Rights Reserved.
公式サイト:https://godzilla-movie.jp/

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