平成ドラマ史を振り返る評論家座談会【後編】 再編成される会社ドラマと、純度の高い恋愛ドラマ

平成ドラマ座談会【後編】

アニメ界、お笑い芸人のドラマ参入への期待

ーー00年代以降に現れた脚本家で印象に残っている方はいらっしゃいますか。

成馬:野木亜紀子さん、安達奈緒子さん、『女子的生活』(2017)の坂口理子さん、最近では『腐女子、うっかりゲイに告(コク)る。』(2019、以下『腐女子』)の三浦直之さんが素晴らしいですね。『腐女子』が放送されているNHKの「よるドラ」枠は最近面白くて、外部から優秀な脚本家を連れてきて、新しいことをやろうとしている。

田幸:私は、1月期の「よるドラ」の『ゾンビが来たから人生見つめ直した件』(2019)の櫻井智也さん。埼玉発地域ドラマの『越谷サイコー』を手掛けてからの抜擢でした。NHKは実験の場が結構あって、地域ドラマや「よるドラ」、単発ドラマなどで書いて、上手くいくと朝ドラ、さらに大河に持ってきてという流れがある。渡辺あやさんはもともとNHK広島制作の『火の魚』、NHK大阪制作の『その街のこども』を経て、朝ドラ『カーネーション』(2011)への抜擢でしたしね。安達奈緒子さんがフジテレビで書いていた『失恋ショコラティエ』(2014)なども面白かったんですけど、『透明のゆりかご』でこんな作品を作る人なんだなと驚かされて、今期は『きのう何食べた?』(2019)が良いですよね。

『きのう何食べた?』(c)テレビ東京

成馬:民放で宮藤官九郎さんが許容された時のような、ボーナス枠が今はあんまりないんですね。昔だったら、キムタク(木村拓哉)のヒットドラマがある一方で、宮藤さんや堤幸彦さんのドラマがマニアックな視聴者を引きつけるという多様性があったんですけど、今は民放に余裕がなくなっていて作家性の強い脚本家は書けなくなってきている。いろいろ批判されるフジテレビですけど、「ヤングシナリオ大賞」が新人脚本家を輩出してきたことによる業界への貢献はホント大きくて、安達さんも野木さんも「ヤングシナリオ大賞」から出てきた。NHKもテレ東もゼロから才能を生み出す場所としてはあんまり機能してないので、もっと若い才能を発掘して育ててほしい。

ーー令和の時代に、平成のドラマはどう引き継がれていくのでしょうか。

成馬:80-90年代生まれの脚本家が今後、何を書くかに注目したいです。山田太一さんや向田邦子さんがテレビドラマで書いてきた主題を、岡田惠和さんや宮藤官九郎さんといった後続の脚本家が継承したことで平成のドラマシーンは盛り上がったのですが、第三世代となる80年代生まれ以降の脚本家がそれをどう引き継ぐのか、あるいは全く別のものになるのか。

大山:60年代から70年代のテレビドラマは、映画で食えなくなって流れてきた人たちが『傷だらけの天使』(1974)とか1時間もののミニ映画をいっぱい作るんです。だけどもう一方で山田太一さん、倉本聰さん、向田邦子さんたちの世代がテレビドラマの60分×10作というフォーマットを作った。山田太一さんが「尺があるから色んなものが描けるんだよって。色んな人たちの機微が描けるんだ」とはっきりとおっしゃっていて。やっぱりそのフォーマットをどう使うかが今後も問われてくるんじゃないでしょうか。

田幸:実は60分×10作を書ける方っていうと限られてきますよね。大根仁さん、福田雄一さんなど、ディレクターも脚本も全部一人でやるような人は増えてきています。

大山:それをテレビドラマっていうフォーマットでどう生かすかですよね。実は朝ドラは15分×100話以上というフォーマットを上手くアップデートしてる。フォーマットを再発明するのか、あるいは山田太一さんたちが作ったものを受け継いでいくのかが今後問われるのかなと思います。

成馬:山田さんたちの時代は、戦後中流家庭が成立したからこそ『岸辺のアルバム』(1977)のような家族の欺瞞を暴くアンチホームドラマが作れたんだけど、今は壊れていることが前提で、格差はどんどん広がっていくし、家族観もバラバラになっていく。令和は生涯独身がどんどん増えていくだろうし、結婚しても子供を産まないというライフスタイルも当たり前になっていく。そういう兆しをみんな感じているから、今『きのう何食べた?』がウケてるんだと思います。NetflixとFODで配信されている『夫のちんぽが入らない』(2019)も最終的には子供を作らない夫婦がどう生きていくかという話になっている。そういう新しい家族をどう描くかのかが課題としてあるかもしれないですね。

大山:『義母と娘のブルース』(2018)も血は繋がっていないですしね。

田幸:色んな家族の形が表現されるようになってきていますよね。

成馬:今後、期待したいのはバカリズムに続くお笑い芸人のドラマ参入ですかね。ドラマとバラエティは本来、パラレルな関係にあると思うんです。作り込んだコントを見せるバラエティ番組は、00年代以降、ほとんど消えてしまったけど、実は宮藤官九郎さんや福田雄一さんがコントバラエティのテイストを持ち込んでことで、ドラマの中で延命したと思うんですよね。優秀な芸人はたくさんいるので、ドラマのフィールドで、もっと才能を活かしてほしい。

大山:新しい才能を発掘する場所としては、特撮モノやアニメーション畑からドラマに進出してくる人だっていますよね。

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田幸:原作モノの多いドラマ界に比べて、優秀なストーリーテラーは、実はアニメの世界に行っている気がします。11年ぶりの新作『地球外少年少女』の構想が昨年発表された『電脳コイル』の磯光雄監督や、『けものフレンズ』『ケムリクサ』のたつき監督など、原作・脚本・監督をすべて手掛けるアニメーターの才能には、ワクワク感があります。ドラマと違って、制限が少なく、表現の自由度が高いからでしょうか。でも、わかりやすい作品が好まれるドラマと違い、かなり複雑で何度も観ないとわからない難解な作品でも、ちゃんとファンはついていくことがアニメでは実証されているんですよね。

大山:岡田麿里さんみたいな方がドラマに入ってきたら面白いですね。

(取材・文・構成=大和田茉椰)

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