平成ドラマ史を振り返る評論家座談会【後編】 再編成される会社ドラマと、純度の高い恋愛ドラマ

平成ドラマ座談会【後編】

テレビだけでドラマ史を語れるのは平成まで

ーー大河ドラマはいかがでしょう?

大山:『いだてん ~東京オリムピック噺(ばなし)~』(2019、以下『いだてん』)はものすごく面白いんですけど、従来の大河ドラマの視聴者には見放されてる感じがするので、今後どう立ち直していくか。

成馬:『いだてん』は『あまちゃん』(2013)のスタッフが作っているのですが、朝ドラで実績を残したチームが大河ドラマを作るようになってきているので、ある程度の成果を出すのではないかと期待しています。ただ、毎週決まった時間に見るという視聴環境が限界にきている印象があります。『いだてん』の予算の掛け方や豪華なキャスティングを見ていると本当に総力戦で、テレビドラマ史に残る最高の表現をしているんだけど、これを失敗作だと判断されたら、今後保守化が進みそうでつらいですよね。

大山:次が長谷川博己の明智光秀で、元の視聴者を取りにいこうとしてるんじゃないかと。視聴者を丸ごと入れ替えるぐらいのことですよね。

成馬:ただ、テレビが高齢者向けコンテンツになっているので、若い人を取り込むことができるのかという問題がありますよね。『3年A組』が若い視聴者に受け入れられたのは希望かもしれないけど。10代向けコンテンツとしてのドラマの影響力は90〜00年代に比べると明らかに落ちている。そもそも「テレビドラマ」という言い方自体が「テレビで放送されているドラマ作品」という意味で。今はNetflixで有料配信されているものやYouTubeで配信される作品も面白くなっている。テレビだけでドラマ史を語れるのも平成までかもしれません。

 一方で面白いのは、ドラマの作り手が若返っていることですよね。『おっさんずラブ』(2018)のプロデューサーの貴島彩理さんも90年生まれで、20代後半から30代くらいの年齢で新しいことをやろうとしている人がポツポツいるんですよ。そういう人たちが活動する場としてのプラットフォームとしてはテレビは残って欲しいし、まだ予算かけられる場所ってテレビぐらいしかなかったりする。

恋愛ドラマは純度が高く

ーー最近は刑事、医療、弁護士モノがすごい増えてきている一方で、恋愛ドラマが減っている印象はあります。90年代と今の恋愛ドラマでは、どう変わってきてるのでしょうか。

成馬:90年代はまだギリギリ、トレンディドラマの影響下にあったけど、『電車男』(2005)以降は、恋愛できない人の恋愛ドラマが流行っている。恋愛をして恋人を獲得すること自体がアイデンティティになっていて、あまり楽しそうじゃないんですよね。

大山:恋愛を“側”にして、実は違うものを描いている。

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田幸:私は実は純愛度が高くなってると思うんです。『おっさんずラブ』(2018)は対象が男性同士なだけで、実はものすごくピュアな純愛ドラマで。『中学聖日記』(2018)も教師と生徒の恋愛ということでタブー視されて最初は批判も多数ありましたが、感情で突っ走るのではなく、自分の気持ちをひたすら隠し、抑えようとしながら、すべてを失っても愛のために待ち続けるっていう、純愛。『昼顔』(2014)も不倫と言いながらも実は純愛ですしね。やっぱり純愛ドラマは今の時代にも需要があって、テーマとして「恋愛」をまっすぐには描かないけど、根底に流れるものに純度の高い愛があるというか。

成馬:『東京独身男子』(2019)は久しぶりにこういうの見たなと思いましたね。時代錯誤感もあるけど、ゲームとしての恋愛をみんなで楽しんでる感が懐かしかった。

大山:80〜90年代のある時期は恋愛ドラマが全体の70〜90%を占めていた時期があったけど、今は医療ドラマや刑事ドラマなどジャンルが増えて、その中の10分の1ぐらいを占めるものになりました。色んな意味で、誰かがあまり不快にならないドラマが今後増えていくでしょうね。『逃げ恥』の時に、劇的にドラマの質が変わって、ドラマの中で男性が女性の話をちゃんと聞くようになったと感じました。それまでは狂人の武田鉄矢が「僕は死にましぇん」と言ってたのが、平匡(星野源)はちゃんとみくり(新垣結衣)の話を聞いて、それを理解した上でライフスタイルや恋愛に反映していくようになった。やっぱりそこから話をちゃんと聞く男が出てくるようなドラマが人気があったし、『アンナチュラル』(2018)でも実は中堂(井浦新)はめちゃくちゃではありつつも、人の話をちゃんと聞くんですよね。特に女性の話をしっかり聞いたり、女性の立場を代弁したりすることができるようになっていく。変わりつつある現実をちゃんと1回噛み砕いた上で反映されたドラマがこれから増えてくるし、そういうものが残っていくんじゃないかなと思います。宮藤官九郎もそういうものが上手くて、『監獄のお姫様』(2017)はそういうところに意識して色んな目線を持って書いてたと思いますし。

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成馬:野木さんが作った流れかもしれませんが、理性的に振る舞う人間を美しく描こうとする作品が増えてますね。『中学聖日記』には『青い鳥』(1997)や『魔女の条件』(1999)といった90年代のTBSドラマの影響があるのですが、90年代のドラマって逆なんですよね。感情を優先して禁じられた愛を選び、社会から逃避することにある種の美学を見出していたけど、今はなんとか踏みとどまって理性的に振る舞うことの方が美しいものとして描かれる風潮があります。

大山:その社会の中心は今はSNSになるんですかね。

成馬:『3年A組』で驚いたのが、最後に批判する対象がSNSだったこと。『未成年』(1995)と最後がすごく似ていると思うんです。ヒロ(いしだ壱成)が屋上で演説する場面があって、あれはテレビを通した視聴者へのメッセージになってるけど、『3年A組』の柊一颯(菅田将暉)はSNSを通してみんなに伝えようとする。テレビ(のワイドショー)よりもSNSの方が敵として肥大化して見えているのが今風だなと思いました。

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