舞台『熱海殺人事件 LAST GENERATION 46』レポート
今泉佑唯が踏み出した芝居の世界ーー『熱海殺人事件 LAST GENERATION 46』の「歴史」と「熱」
そんな役どころなだけあって、今泉が登場して早々、彼女の声と身体の細さには正直不安を覚えてしまう。初舞台なのだから、それはしょうがない。しかし、だからといって本作は観客の、「あたたかく見守ろう」といった気持ちを喚起するような作品でもない。すでに触れたように、圧倒的な熱量が舞台上で渦を巻き、それが観客には間断なくぶつけられる。私たちはそれに置いていかれぬよう、目を皿にして、耳を澄まし、必死に喰らいついていかねばならない。そうして、舞台上と客席とが一体となってグルーブ感を巻き起こす瞬間に何度も立ち会うことになるのだ。即時的なコミュニケーションを生み出す芸術である「演劇」の、これまた醍醐味である。しかしこれを劇場全体で生み出すためには、そもそも演者陣のパワーバランスが拮抗していることが大前提だ。
たしかに今泉の声には鋭さがなく、荒唐無稽なように思える物語展開と、自身の演じるキャラクターのテンションのアップ・ダウンには、彼女の瞬発力は伴っていない印象があった。この基礎力に関しては、やはり経験値の問題なのだろう。しかし今泉は、物語が進行するのに合わせて、次第にその真価を発揮していく。
彼女の強みはなんといっても、目の前で生起するものに対するフレキシブルな反応の良さである。これは反射神経の良さとも言い換えられるだろう。本作では、いくつものナンセンスギャグをはじめとするアドリブが飛び交うが、それに対する今泉の軽やかな返しや、自然な笑みをこぼす姿が印象的なのだ。そしてこの反射神経の良さは、とうぜん相手の放つ演技を受けてこそ開花する。その最たる瞬間は、彼女が山口アイコとして、大山と対峙する場面に訪れる。この場面では、大山の感情の発露にアイコが鋭く反応し、これが反復されることによって、両者の間には感情のクレッシェンドが生まれていく。ここでの今泉の鬼気迫る姿には、まだ技術的にはおぼつかないところがあるものの、その場で生まれた感情を掘り下げていく演技のセンスは抜群だと気づかされるのだ。この感情の進化(深化)は、終始緩急の激しいアンリアルな作りの本作の中で、「リアル」を生み出す。虚構であることに自覚的な本作が、勝利を得た瞬間にも思えるのだ。
演者それぞれの魅力が拮抗し、互いが互いに作用し合う『熱海殺人事件』。観終わってこそ、彼ら一人ひとりがそこに立つ理由が明らかになる。演じる彼らが叫ぶのならば、観客であるこちらも叫び返したい。演じる彼らが命がけならば、観るこちらも命がけなのだ。そんな「熱」が、東京・新宿の中心で、いま生まれ、声を上げている。
(取材・文=折田侑駿)
■公演情報
『熱海殺人事件 LAST GENERATION 46』
東京・紀伊國屋ホールにて2019年4月5日(金)~21日(日)
作:つかこうへい
演出:岡村俊一
出演:味方良介、今泉佑唯、佐藤友祐(lol-エルオーエル-)、石田明(NON STYLE)
公式サイト:http://www.rup.co.jp/atami_2019.html
上演時間は約2時間。当日券は毎日抽選にて発売。