『いだてん』中村勘九郎が初めて感じた“プレッシャー” 日本陸上界に繋がれてきた努力のバトン
『いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~』(NHK総合)第11話では、1912年7月を舞台にストックホルムオリンピックが開幕した。今回、弥彦(生田斗真)は“清々しい”敗北を見せ、四三(中村勘九郎)は初めてプレッシャーを感じることとなる。
ストックホルムオリンピック開会式に、「NIPPON」のプラカードを持って入場した四三と弥彦。いよいよ競技がはじまる。世界の強さに圧倒され、プレッシャーを感じる弥彦だったが、大森兵蔵(竹野内豊)に背中を押され、100メートル短距離走を好タイムでゴールする。順位は惨敗だったのだが、走りきった弥彦の表情は明るかった。
100メートル短距離走に挑む直前、弥彦の表情は固い。前話で世界との圧倒的な差を味わってきた弥彦。体全体からその差に立ち向かわんとする気迫が表れているのだが、そこに普段の弥彦らしい余裕ある姿はない。生田は体をこわばらせて1点を見つめたままだ。その演技から、世界基準も知らないまま日本人初のオリンピック選手として競技に参加することになった弥彦の凄まじい緊張が伝わってくる。
そんな弥彦の緊張を兵蔵がほぐす。「敵はタイムのみ。タイムという同じ敵と戦う同志と思いたまえ」と言う兵蔵の言葉に、本当に戦うべき敵が何なのかに気づく弥彦。生田は緊張感をまとっていた姿から一転、凛とした目つきを見せる。競技会場へと向かう弥彦の背中からは、勝利への重圧ではなく、走ることを楽しもうとする純粋な気持ちが溢れ出ていた。
100メートル短距離走を走りきった弥彦の表情は明るい。だが、その明るい表情とは裏腹に、彼の口から出た言葉は「日本人に短距離走は無理なようだ」だった。タイムという敵に立ち向かい、自己新記録を出した弥彦。しかし彼が競技本番まで味わってきた世界との圧倒的な差は、彼にしか感じ得ない絶望を味あわせていたのかもしれない。生田の満面の笑顔と対照的なこの台詞は、弥彦が感じ続けてきた重圧がにじみ出るものとなった。
そんな弥彦の様子がきっかけで、モヤモヤを抱え戸惑いを見せる四三。前話では、四三は世界との差に絶望した弥彦を力強く励ました。だが競技後の弥彦の様子を見た四三からは普段の朗らかさがなくなってしまう。これまでも四三が考え込んだり、塞ぎ込むようなシーンはあったが、純粋な「走りたい」という気持ちがそれを乗り越えさせていた。しかし、今回の四三を襲ったモヤモヤは「走りたい」という気持ちを覆い隠すほどのものだった。弥彦はそんな四三にモヤモヤの正体を伝える。
「西洋人はそれを、“プレッシャー”、と呼ぶそうだ。君だけじゃない。無論、僕も持っとる」