『ボヘミアン・ラプソディ』の作品賞はオスカー攻勢にどう影響を及ぼす? 大波乱のGG賞から予測

大波乱のGG賞から占うオスカー

『女王陛下のお気に入り』(c)2018 Twentieth Century Fox

 この部門分けには、ゴールデングローブ賞側の何らかの意図が反映されているという説が濃厚だ。それを踏まえると考えられることは<ドラマ部門>に“ふさわしい”作品が少なかったこと、あるいは逆に<ミュージカル・コメディ部門>に“ふさわしい”作品が多かったこと。現に、<ミュージカル・コメディ部門>にはアカデミー賞で善戦が期待される『グリーンブック』、『女王陛下のお気に入り』『バイス』が挙がり、『メリー・ポピンズ リターンズ』と『クレイジー・リッチ!』という話題性の高い作品で作品賞枠が埋められた。

 しかし、<ドラマ部門>にはすでに賞レースを快走している『ROMA/ローマ』の名前がない。これは外国語映画賞と作品賞に同時に候補入りをさせられないという規定があるからだと言われている。『ROMA/ローマ』を外国語映画賞にノミネート(もちろん受賞を果たし、同時に対抗格として前哨戦で目立つ『Cold War』が候補落ちした)させたことで作品賞<ドラマ部門>に入れることができない→枠が空いたところに他にふさわしい作品がなく、『アリー/ スター誕生』か『ボヘミアン・ラプソディ』を持ってくる→ともに音楽映画であるから部門が分かれる違和を避けた、という流れが見え隠れする。

 となると、何かこの2作によって候補落ちせざるを得なくなった作品があるということだろうか。それを考えると他部門の候補入り作品から『ある少年の告白』が浮上するが、前哨戦での作品評価を踏まえると弱い。前哨戦好調のA24作品(『First Reformed』と『Eighth Grade』)がともにどの部門でも候補入りしていない“無視”をくらったことを考えれば、今年はそれだけ<ミュージカル・コメディ部門>向きの作品の層が厚かったということがわかるだろう。

『アリー/ スター誕生』(c)2018 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC

 いずれにせよ、この受賞結果で証明されたことがもうひとつある。<ドラマ部門>で『ボヘミアン・ラプソディ』に完敗を喫した4作品の勢いが低下しているということだ。『アリー/ スター誕生』は作品評価を支えていたレディー・ガガが主演女優賞<ドラマ部門>で、“無冠の女王”グレン・クローズに完敗。ゴールデングローブ賞以上にアカデミー賞に直結するアメリカ製作者組合賞を逃した『ビール・ストリートの恋人たち』も雲行きが怪しく、『ブラックパンサー』はマーベル映画(というよりアメコミ映画)初のアカデミー作品賞候補は確実と言われているがそれ以上のパワーは微妙なところで、また夏公開ながらしぶとく粘る『ブラック・クランズマン』も作品賞入りは問題ないだろうが、もう一息の印象だ。

 けれども『ボヘミアン・ラプソディ』が強力かと言われれば、それも違う。周りが底下げされたことで『ROMA/ローマ』がアカデミー賞の頂点に輝く可能性が高まったと判断するべきだろう。そして現時点で逆転の可能性を秘めているのは、層の厚い<ミュージカル・コメディ部門>を勝ち進んだ『グリーンブック』、そして主要部門を獲得して最多候補の威厳を保った『バイス』といったところか。

■久保田和馬
映画ライター。1989年生まれ。現在、監督業準備中。好きな映画監督は、アラン・レネ、アンドレ・カイヤット、ジャン=ガブリエル・アルビコッコ、ルイス・ブニュエル、ロベール・ブレッソンなど。Twitter

■公開情報
『ボヘミアン・ラプソディ』
全国公開中
監督:ブライアン・シンガー
製作:グレアム・キング、ジム・ビーチ
音楽総指揮:ブライアン・メイ、ロジャー・テイラー
出演:ラミ・マレック、ジョセフ・マッゼロ、ベン・ハーディ、グウィリム・リー、ルーシー・ボイントン、マイク・マイヤーズ、アレン・リーチ
配給:20世紀フォックス映画
(c)2018 Twentieth Century Fox
公式サイト:http://www.foxmovies-jp.com/bohemianrhapsody/

『女王陛下のお気に入り』
2019年2月、全国ロードショー
監督:ヨルゴス・ランティモス
出演:エマ・ストーン、レイチェル・ワイズ、オリヴィア・コールマン、ニコラス・ホルト、ジョー・アルウィン
配給:20世紀フォックス映画
2018年/アイルランド・アメリカ・イギリス映画 
(c)2018 Twentieth Century Fox

『アリー/ スター誕生』
全国公開中
監督・製作:ブラッドリー・クーパー
出演:レディー・ガガ、ブラッドリー・クーパー
配給:ワーナー・ブラザース映画
(c)2018 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC
公式サイト:http://wwws.warnerbros.co.jp/starisborn/

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる