The Wisely Brothers 真舘晴子の「映画のカーテン」第5回
The Wisely Brothers 真舘晴子が語る『ザ・スリッツ』 「女性であることの可能性はどんな方向にも生かせる」
スリッツの映画を観た次の日、私はずっとしまっていたピンクのコートを着て外に行った。サンフランシスコの古着屋さんのオンラインショップで去年見つけたそのコートは、サイズ感など写真からしか想像できないけど、どうしても欲しくなり購入した。季節に関わらず、そのコートを部屋の中で何度も羽織っては、可愛いけれどなんだか派手だ、外に着ていけない気がする、と思ってクローゼットにしまっていた。だけどこの日は、このコートを初めて外に着て行きたい気持ちになった。
スリッツは1970年代に初めて誕生した女性のみのパンクロックバンド。私たちがバンドを初めてライブを外でするようになった頃、見てくれたおじさんに「スリッツぽさあるよね」と言われたことがあって、YouTubeでたまに思い出して聴くくらいでした。スリッツがどんな人たちで、どんな風にバンド活動をしていたかは知らなかったので、ドキュメンタリー映画が公開されると聞いた時はすぐに観たいと思いました。
外国のバンドのドキュメンタリーはしばしば、好きだったり知っているバンドだったら観ます。そうでないと、私はカタカナの情報に頭が追いつかない。だけどこの作品は、それを理解しなくても、バンドをやること、とりわけガールズバンドをやること、それに女の子であることの概念をぐるっと面白く考えさせるものでした。
まず、スリッツは今の私たちと真逆でした。それは「人目を気にしていない」という点から始まります。ファッション、ヘアメイク、ライブ、発言……女の子らしさを持てと言われたらしい1970年代のイギリスに逆らい、逆毛を立てては大声で思ったことを叫び、歌い、素直に存在した。
当時はオイルショックにより経済が悪化し、貧しい暮らしをする人たちが増え、街は衰退。性差別が残っていたり、移民のための教育が始まるも、佇む人種差別がありました。それに犯罪も進み、人目というものがどれだけ大きかったか今よりも計り知れないのに、枠にとらわれない女の子のバンドがその街にいた。それは最高のエンターテインメントであり、何かの標的にもなりそうだと思いました。
メンバー4人の個性はバラバラで、それぞれの色が強く4つが合わさるとより強力な個性になったそうです。だからこそ言い合いになることはあるけれど、気にならないと言っていました。4つの意見が合わさることの楽しさを何より持っていたのでしょう。
活動当初、メンバーの中でも最年少だったボーカルのアリ・アップは、「We’re not musicians.」と発言します。私たちはバンドをやっている中で、「ジャンルは?」「どういう音楽をやっていますか?」と聞かれたら、毎回ほんとうに迷っていました。それは誰かが決めた「何か」にならないといけないと思ったから。スリッツのように、「私たちはワイズリーブラザーズです」と言えばいいだけだったのに。