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野木亜紀子が生み出すドラマが教えてくれること 『けもなれ』ほか新垣結衣主演作から読み解く

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 『空飛ぶ広報室』『重版出来!』『逃げるは恥だが役に立つ』『アンナチュラル』(いずれもTBS系)、『フェイクニュース』(NHK総合)等々。野木亜紀子が脚本を務めたドラマは傑作がずらりと並ぶ。

 観る者を画面に引き寄せ、決して“ながら観”を許さないテンポと空気感。描かれる人々の暮らす世界は違っても、それぞれの作品の中で、登場人物たちは多かれ少なかれ何かの壁にぶつかり、葛藤し、思い悩む。自分なりの“答え”を見つけようとするもなかなか上手くいかない。そんな人間たちの姿を観て、私たちは幾度となく心を揺さぶられてきたものだ。

 とりわけ、新垣結衣が主演を務める野木ドラマは、現在放送中の『獣になれない私たち』(日本テレビ系、以下『けもなれ』)で4作目。2人のタッグは『空飛ぶ広報室』に始まり、『掟上今日子の備忘録』(日本テレビ系)、『逃げるは恥だが役に立つ』(以下『逃げ恥』)と続く。これら4作品は世界観も、新垣結衣の役どころも異なるが、そこには繰り返し語られてきたテーマがあるように思われる。そこで、野木ドラマの中でも新垣結衣とのタッグ作を振り返りながら、『けもなれ』に至るまでの軌跡を見ていこう。

“誰がやってもいい”仕事を描くことで見えるもの 

 世の中には、“誰がやってもいいのだが、誰かがやるべき仕事”がある。最初のタッグ作品の『空飛ぶ広報室』は、そうした仕事の価値が丁寧に描かれる。ヒロインの稲葉リカ(新垣結衣)は、記者を目指してテレビ局に就職。念願の報道局で働くことになったものの、ある出来事をきっかけに情報局に異動となってしまう。情報局での仕事は、街角グルメ特集や“働く制服シリーズ”といった、それまでの仕事とはタイプが違うものばかり。作中の表現を借りれば、“あってもなくても世の中に何の影響もない番組”なのだ。リカにしかできない仕事とは、必ずしも言い切れない。

 ここで興味深いのは、本作の舞台となる空幕広報室での取材も、当初は“働く制服シリーズ”から始まったものであることだ。それでも、広報室での密着を続けるリカは、決してその仕事をいい加減にこなそうとはしない。彼女なりにプライドを持ってつぶさに取材を重ねるのだ。たとえ“バラエティーみたいな仕事”であっても、与えられた環境でひたむきに汗を流す。本作で特筆すべきは、そうした姿勢で仕事を続けていく中で、いつしか“誰がやってもいい”仕事から、“稲葉リカでなければできない仕事”に変わっていくことかもしれない。

 さて、話は変わって『けもなれ』の主人公・深海晶(新垣結衣)もまた、仕事で多くの壁にぶつかるヒロインである。ただ、稲葉リカの“壁”や“悩み”とは質的にだいぶ異なる。通常業務はもちろん、社長の秘書的仕事や、至らないところの多い部下の手伝いまでこなす。社長に改善を促すが、すぐに状況は好転するわけではない。おまけに、オフィスのゴミ出しからコーヒーメーカーのセットまでをもこなす晶の背中からは、リカにはないストレスが漂う。

 晶の仕事の中にも、他の“誰かがやってもいい仕事”はある。周りは「深海にしかできない」「深海さんだからこそできる」とみなしているものの、その気になって探せば、他に担う人がいてもおかしくない仕事だってあるはずだ。晶が思わずオフィスで延々と「幸せなら手をたたこう」を鼻歌するのも無理はない。彼女だって周りの社員を困らせたいわけではない。だから、やらなければならないと思うと笑顔で引き受けてしまう。

 ところで、誰かがこなされなければならない仕事について、村上春樹は『ダンス・ダンス・ダンス』の中でそれを“文化的雪かき”と表現した。“文化的”なものに限らず、現代を生きる私たちの周りには、そんな“雪かき”仕事に日々向き合う人々がたくさんいる。それは職場の仕事とは限らない。家事だってそうだ。本来は夫がやっても、妻がやってもどちらでもいいものであって、家庭内の誰か1人が背負い込む必要があるものではないはずだ。その点、『逃げ恥』の中でヒロインの森山みくり(新垣結衣)が、家事労働について「賃金」や「搾取」という考えを持ち出してあれこれ考えを巡らせるのは、ある意味では当然のことなのだ。誰がやってもいい。でも誰かがやらなくてはならない。

 稲葉リカも、森山みくりも、深海晶も、抱えているものも置かれた状況もみんなバラバラ。晶の抱えるストレスと、リカの抱える葛藤を単純に比較することはできない。ただ、3人は各々の物語の中で、誰もが羨む“大活躍”を果たすヒロインというよりも、むしろ地道に、ひたむきに、そして丁寧に日々の仕事に向き合う主人公として描かれている。だからこそ、そんな彼女たちの姿を観ると、「これは“私たちのあり方”について書かれた物語だ」と思えるのかもしれない。私たちは人生の中で、多かれ少なかれ、“雪かき”仕事に勤しむときがある。その時、人は何を抱え、どう対処していくのか。それらを様々な視座から見つめていくことが、これらの作品の意義の一つと言えよう。

      

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